ヨセフの再会
The reunion of Joseph
 

ホン・ソンピル (洪 性弼)
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「ヨセフの再会」
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第一章 決断 第16話

 私が喜んだと思うかね。いいや、初めは怖かった。それもそうだろう。献酌官が私を助けてくれるのなら、彼が呼ぶはずではないか。万が一、献酌官が私の悔しさを陛下に申し上げたとして、私が釈放されることはあっても、陛下が直接私をお呼びになるはずがない。そうでなかったらポティファル将軍から命じられたはずだ。
 なのに、突然、陛下が直々お呼びだとはどういうことだ。思いもよらぬ展開に私は驚いた。だが、逆らうわけにもいくまい。私はすでに待つことも望むこともなくした状態だった。私がどう思おうと何の意味があろうか。待つということの忘却によって、私は喜びや恐怖さえもすべて忘れてしまったようだった。そこから出た後、私が料理官や他の悲劇的な官僚たちのように木に吊るされ、鳥たちが私の体をついばんだとしても関係ない。この世に名もなく訪れ、名もなく去っていく魂がどんなに多いだろうか。私も所詮はその中の一つに過ぎない小さな魂。この地に小さな爪痕すら残さず消えゆく塵のような存在のように、ただこの地に小さな命、静かに来たりて、寂しく消えていくだけだ。血を分けた兄弟たちに見捨てられ、奴隷として売られ、恥ずかしい濡れ衣を着せられて死んいくとしても、怖くも恐ろしくもない。いずれにせよ、もう自分の力ではどうしようもないことだ。
 未来が栄光へと続く道であろうと刑場へと続く道であろうと、わたしはただ何も考えず従うことにした。
 数年ぶりに塀の外へ出たようだった。牢の中から見えた空とは明らかにちがう。同じ空とは思えないほど色が違っていた。
 私は陛下からの使者に連れられて行き、そこで謁見の支度を整えた 。何が起こっているのかと尋ねようともしなかったよ。尋ねてどうする。知ってどうする。自分の力で神の口を開くことができないのと同様に、自分の力で人生を変えることもできないという事実を、少しずつ分かってきたような気がしたのだ。
 初めて足を踏み入れた王宮は、とてもまぶしかった。家臣たちが着た服は太陽よりも輝いて見えた。床や壁も光っていた。いくら感情が枯れていたとはいえ、私の前に広がる廊下の上を歩いているということ自体が驚きだった。そのような床の上を踏んでもいいということが信じられなかったほどだったよ。
 広々とした豪華な廊下を過ぎると、大きな扉が見えてきた。ゆっくり門が開き、導かれるままに入っていくと、そこには偉大な威厳が待っておられた。そう、陛下だ。エジプトを統治するファラオ、世界を動かす皇帝陛下だったのだ。

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