第三章 苦悩 第24話
このように、私は妻にも子供にも恵まれました。それは事実です。
財産だってかなり儲けることができました。あんな薄情なラバンの下にいながらも、六年の間これほどの富を蓄えることができたということは、それこそ奇跡です。柄のない羊やヤギから柄のあるやつらを産ませるためにどれほど苦労したか、神様も見てご存知ですよね?それこそ骨身を削る苦痛の日々でした。
そう…、そうなんです。
命をかけて長子の権利と父の祝福を奪ったにもかかわらず、その結果、兄の手から逃げまわる身に成り下がってしまいました。
ラケルを得るために十四年間、ただ働き同然でラバンにこき使われました。
がめついラバンの下で財産を貯めるために、六年もの間、血と汗と涙を流しました。
愛する娘ディナは異邦人によって辱めを受けてしまいました。
それで、シメオンとレビは殺人を犯すことになりました。
私は今まで蓄えてきたかなりの財産を兄に差し上げました。
ヤボク川を渡る前には負傷を負い、今ではほら、(不自由に歩いて見せる)足まで不自由になりました。
あれほど長年の苦労の末に得られたラケルはあまりにも早く私の傍から去って行ってしまいました。
そして愛しいヨセフは…。愛しいヨセフは猛獣によって殺されたんです。
ああ、ヨセフ…。ヨセフ…。
(両手で顔を覆ってむせび泣く)
(顔を覆ったまま)ラケル、申し訳ないことをした。あなたのためにも、ヨセフを守ってやらねばならなんだが、出来んかった。私は将来、あなたに合わせる顔がない。ヨセフが生きていたなら、今ごろ三十を超えていただろうに、自分の夢も叶えることが出来ぬまま、十七という若さで死んでしまうとは…。ラケルよ。すまん…。本当に、すまん…。
(覆っていた手を下ろし、急に横を振り返って)
なのに、この馬鹿息子ども!せっかくエジプトにまで行かせて食料を買って来いと言いつけたのに、シメオンを人質に取られたうえ、ヨセフだけでも足りず、今度はベニヤミンまで奪っていくつもりか!この役立たずども!お前らがこの老いぼれのためにしてくれたことが、何一つあったか?この親不孝者め!
(その場に座り咳き込む…。)
(腹をすかせた声で)
はあ…。はあ…。ゴホゴホ…。はあ…。はあ…。雨が降らん。なぜ、雨が降らんのじゃ。穀物が獲れんではないか。あの土地を見てみろ。燃えるように赤く広大な大地を見てみろ。空から炎の塊が休みなく降ってくるようじゃ。アブラハムの神、イサクの神がどうして、このような試練をお与えになられるのじゃ。
命を懸け、知恵を絞ったあげく、得られたのがこれなのか…。これが全部だというのか…。あれほど努力をして得られた結果が、たったこれだけだというのか。
はあ…。はあ…。ゴホゴホ…。もう、もう、勝手にせい、連れて行け、ベニヤミンを、連れて行くがよい。もしも、失うことになれば…。もしも、失うことになれば…。ゴホゴホ…。はあ…。はあ…。はよう、行ってこい。はよう…。はよう…。
第三章幕。
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