第四章 疑問 第9話
ナフタリ
:(ダンを見て)ダン兄さん、今、ユダの兄貴が…。
ダン :わ、わかってるよ。
ナフタリ :ヨセフがどうしたって言うんだろう。
ダン :こいつはただ事じゃねえかも知んねえぞ。
ナフタリ :ただ事じゃない?何が?
ダン :今、見たか?レビとユダの兄貴をよ。
ナフタリ :え?なにが?
ダン :お前も鈍いな。レビの兄貴のあんなおじけづいた姿、見たことあるか?
ナフタリ :そ、そうかな。
ダン :それによ。レビの兄貴が尋ねる前に、ユダの兄貴の口から「ヨセフ」の名前が飛びだしただろう。
ナフタリ :あ、そうだったね。
ダン :あの二人、何か知ってるかもな。
ナフタリ :何かって?
ダン :そんなの知らねえよ。でもよ、今のこのタイミングでヨセフの名前が出て来たってなると…。ちょ、ちょっと、オレも聞いてみるか。
ナフタリ :え?何を?
ダン :(ナフタリを一度見た後、ユダの方を見る)ユダ兄貴、今「ヨセフ」…。「ヨセフ」って言ったよね。
ユダ :(軽くうつむいている)
ベニヤミン :(右の隅にいたが、ダンの話を聞き、驚いて顔を上げ、ユダの方に向かってゆっくりと歩いてくる)
レビ :(ベニヤミンのこの姿を見て、反対側の左の方に歩いていく)ったく、なんだよ、もう…。(舌打ち)
シメオン :(軽くうつむき左側の方に少し進み停止)
- 照明が暗くなって、中央にあるユダとベニヤミンを照らす。左側ユダ。右側ベニヤミン
ベニヤミン :(用心深くユダに近づいて話しかける)兄貴…。ユダ兄貴…。今「ヨ…セフ」って言いました?
ユダ :(黙ってじっとうつむいている。)
ベニヤミン :兄貴…。兄貴…。答えてください。今「ヨセフ」って言いましたよね?そうでしょう?そうですよね?
ユダ :うむ。それが、つまりだな…。(軽くベニヤミンを見てからまた戻ってうつむく)
ベニヤミン
:兄貴。ユダ兄貴。違うと言っても駄目です。僕は今、はっきり聞きました。兄貴の口から…。兄貴の口から「ヨセフ」という名前が漏れたのを、はっきりと聞きました。ボクには聞こえました。間違いなく聞こえました。ヨセフ…ヨセフ…ヨセフ…ヨセフ…僕は兄貴たちのいるところでは、この名前をとても口にすることはできませんでした。父さんにも言うことができませんでした。どうしてかわかりますか。僕が「ヨセフ」という名前を言わなかった理由がわかりますか。
- ベニヤミン、音もなくむせび泣く。
ベニヤミン :僕も、そうなるかも知れなかったから。
ユダ :ベニヤミン…。
ベニヤミン
:僕も、そうなるかも、そうされるかも知れなかったから。服を脱がされたまま、穴の中に投げ込まれ、そして、名も知らない遠い国に売られていくかも知れなかったから…。
ユダ :みんな、知ってたのか。
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