第四章 疑問 第16話
ユダ
:隊長殿。お待ちください。これは、どういうことなのか全く分かりません。
使者
:お前にわかるかどうかが重要ではない。お前も見たように、こやつの(ベニヤミンを指す)荷物の中から宰相閣下の銀の杯が出て来たではないか。だからこやつだけを連れて行って調査をするから、お前たちは帰ってもよいと申しておるのだ。さあ、さっさと立ち去れ!
ユダ
:隊長殿、こうなった以上、何を申し上げられましょう。どうすれば私どもの心の中を開いてお見せできるでしょうか。いずれにせよ私どもの荷物の中から宰相閣下のものが発見されたのですから、私どもがみな、閣下の奴隷になりましょう。
使者 :いや。そんな必要はないと申しておるではないか。盗んだ者だけを連行せよとの閣下の命令だ。お前たちは、早く故郷に帰れ!
ユダ
:隊長殿、しばらく、今しばらく私の話をお聞きください。以前、閣下が私どもの家族について詳細に尋ねられた時、私どもには父がおり、末の者がいるが、彼を産んだ母親と兄は早くこの世を去り、老年に得られた子供であるがゆえ、父親がその末の者を寵愛していると申し上げました。
- 照明が少しずつ暗くなってユダだけを照らす。
- ユダ、観客席を向いて話を続ける。
ユダ
:すると閣下が、その末の者を連れて参るようにおっしゃいました。どうして、そのようなことを命じられたのかは定かではありませんが、しかし隊長殿、それは容易なことではありません。父が末の者を寵愛しており、どこに行っても彼を連れて行く有様です。文字通り一瞬たりとて一人でおくことがありませんでした。それほど愛されたので、もし、そのその者を連れて来るとすれば、そうすれば、おそらく父は心を痛まれ、病に臥せってしまうかも知れません。だからこそ、私は閣下に何度も申し上げたのです。食料の代金として、もっとお金を持ってこいというのでしたら持って来ましょう。私どもがお持ちした金が足りないというのでしたら、下さる分だけでも有難く頂きましょう。しかし、しかし末の者だけは、私の父の傍に留まらせてくださるよう何度もお願い致しました。ところが、閣下は、なぜか末の者を必ず連れて来るよう申し付けられます。そうしなければ、二度とエジプトに来ることはできないと厳しくおっしゃいました。
ユダ
:隊長殿もご存知でしょう。今、この地域に二年前から続く干ばつは空前絶後の災害です。私どもの住むカナンの地でも、すべての穀物が乾き、地はひび割れ、ひと握りの食糧さえも得ることができませんでした。今、この地域で食糧がある国は、唯一エジプトだけです。エジプトだけが私たちの命綱なのです。もし、エジプトで食糧を得ることができないとしたら、私たちは荒野の真ん中で草が枯れていくように、死んでいくしかありません。
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