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第五章 追及 第1話
登場人物
アセナテ （ヨセフ ― ツァフェナテ・パネアハの妻）
場所
ツァフェナテ・パネアハ宰相の執務室または二人の部屋
なりませぬ。断じてなりませぬ。私までも騙そうとされるのですか。たとえあなたの神を欺くことができようとも、私を騙すことなどできませぬ。もし私の言葉が間違っているのなら、あなたの神がわたしを幾重にも罰せられることを望みます。
ツァフェナテ・パネアハ閣下。今、あなたは、エジプトの皇帝のような方です。大丈夫です。今、私たちの話を聞く人は誰もいません。すでに席ばらいを命じておきました。しかし、たとえ誰かが聞こうとも、これを否定する人はないでしょう。今この国でツァフェナテ・パネアハに逆らえる人などおりせん。これは陛下があなたを皇帝に次ぐ権威とされたからです。いや、むしろ陛下もまたあなたの進言に従っておられます。その証拠がまさにあなたの手の中にあると言えましょう。その指に輝く指輪は他でもない陛下ご自身の手で渡された皇帝の印章です。九年前、その指輪と共に与えられた閣下の威厳は今でも色褪せることなく輝いています。
あなたは過去に七年続いた大豊作の間、徹底的に備えをされました。これはあなたが陛下の夢を解き明かし出来たからこそ可能だったことでしょう。最初は疑う人間もいましたが、あなたの預言は的中しました。エジプトの建国以来、あのような驚くべき大豊作はありませんでした。食糧や家畜が溢れ、統計を試みても増える一方の収穫量に追いつくことができないほどでしたね。国中の人々は、あの豊作が永遠に続くであろうと信じていました。誰も七年後に飢饉が襲ってくるとは想像できないほどの大豊作でした。人々はお金に溺れました。酒に酔いしれました。享楽に浸ってました。歓喜に我を忘れていました。労働は消え、怠惰が支配し始めました。潤いがもたらす喜びはいつのまにか退屈となっていきました。実に愚かな人たちです。もしかすると幸せとは、人々にとって贅沢なのかもしれません。人々は幸せをどのように受け入れるべきかを知りませんでした。もし、あなたがいなかったら、この国は、飢饉に襲われる前、豊作のために滅びてしまったかもしれませんね。
しかし、エジプトの神々は信じられないほどの贈り物を準備しました。それは、あなた、ツァフェナテ・パネアハ閣下です。長い間続いた豊作がもたらした快楽に溺れ堕落する直前だったエジプトの国民をあなたは厳しく戒めました。この豊作は長続きしない。七年で終わる。その次には恐ろしい七年間の飢饉に見舞われる。飢饉が始まると、今の豊作の間に得られたものがすべて消え失せてしまうだろう。
その時は誰も信じませんでした。陛下の家臣たちも皆があざ笑いました。ましてやあなたの妻である私ですら、にわかには信じることができませんでしたから、無理もありません。しかし、誰もあなたの権威に逆らえませんでした。それは、何よりも陛下のおかげです。あなたを否定することは、解き明かしをした陛下の夢を否定するであり、それはつまり陛下を否定する反逆とみなされたからです。
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