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第五章 追及 第10話
あなたのお父様も大した方ですね。次男が捕らわれているというのに、お父様は末っ子であり、あなたの唯一の実の弟を送ろうとはしなかったようです。そして時間が過ぎ、そのとき持っていった食料が底をついたころになってようやくベニヤミンを送ってきました。あなたは一日を千年のように待ってたことでしょう。
最初は彼らに会おうとしなかったあなたでしたが、これで立場が逆転しました。あなたは彼らを待ち焦がれるようになったからです。
私にこんなことを漏らしておられましたよね？もしかしたら、長い間逢っていないので顔を忘れていたらどうすればよいかと。しかし、そんな心配は無用でした。その顔の輪郭、目鼻立ちや肌や髪。どうして見間違えることができるでしょうか。彼を初めて見た私にも、あなたの弟ベニヤミンを初めて見た私にも、彼があなたと同じ血筋だとわかるくらいそっくりでした。ベニヤミンの顔を確認してからようやくお父様の安否を尋ねるほど、あなたはベニヤミンに夢中でした。
あなたは、それから彼らにごちそうをもてなしました。自分たちが何も言わなかったにもかかわらず、あなたが年齢順に席に着かせるのを見て彼らは驚いていました。気づきませんでしたか。それもそのはず、あなたはベニヤミンだけを見ていたからでしょう。そして、あなたは、食事をベニヤミンにだけ五倍もの量を与えました。ホホホ。そんなに食べられるはずないじゃありませんか。あなたはあなたなりにベニヤミンに何かをしてあげたかった。しかし、何をしてあげればいいかをそれほど知らなかったのでしょう。
理由はどうであれ、あなたが喜んでいる姿を見て、私も嬉しく思いました。あなたがまるで子供のような無邪気な姿を、長い間見ていなかったような気がしました。
あなたは今、酔っています。いいえ。葡萄酒よりもさらに強いベニヤミンという酒に酔っているのです。
それだけではありません。あなたは、もしかしたら、権力という酒にも酔っていらっしゃるかもしれませんね。
陛下があなたにされたのお言葉を覚えていらっしゃいますか。
「おまえが私の家を治めるがよい。私の民はみな、おまえの命令に従うであろう。私がまさっているのは王位だけだ。」とおっしゃるほど、あなたは名実ともにエジプトの支配者です。
あなたは偉大です。あなたの一言で彼らの命を一瞬に吹き飛ばしてしまうこともあります。それほどの力をあなたは持っています。あなたの知恵とあなたの清さ、あなたの忠誠心からすれば、それだけの力を持っていて当然です。今までその力をむやみに使ったことなど一度もありませんでした。今までどんなに偉大な君主よりも、あなたは賢明で知識と知恵に満ちております。あなたは、この数年間、陛下には勿論のこと、私も失望させたことがありません。ですが、あなたは、兄弟の方々に会ってから変わりました。
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