第六章 従順 第3話
神は曽祖父アブラハムに絶えず言われました。
アブラハムを呼び出され、天の星々のように子孫をお与えになると言われた神。
あなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪う者をのろうと言われた神
東西南北を見渡す地すべてをお与えになると言われた神。
罪に溺れたソドムとゴモラを滅ぼすご計画もアブラハムに隠さず言われた神。
イサクにあるべき土地を言われた神。
イサクと共におられると言われた神。
イサクを祝福してくださった神。
アブラハムに誓った祝福を与えると約束された神。
どこへ行ってもヤコブと共におられると言われた神。
ヤコブを守ると言われた神
ヤコブを導くと言われた神。
ヤコブを捨てないと約束された神よ!
なのに、なぜこのヨセフには沈黙をされるのですか!
兄たちが私を憎むときにも、神は沈黙しました。
兄たちが私のあや織りの長服をはぎ取るときにも、神は沈黙しました。
兄たちが私を穴の中に投げ入れたときにも、神は沈黙しました。
銀二十でエジプトに売られて行くときにも、神は沈黙しました。
ポティファル将軍宅で奴隷生活を強いられていたときにも、神は沈黙しました。
彼の妻が私を誘惑するときにも、神は沈黙しました。
夫人を振り切って出てくるときにも、神は沈黙しました。
私に濡れ衣を着せられたときにも、神は沈黙しました。
その結果、牢にの閉じ込められたときにも、神は沈黙しました。
神は何故、このヨセフには黙っておいでなのでしょうか。アブラハム、イサク、ヤコブにはあれほど言われた神なのに、何故、聖なる神の口ヨセフの耳から遠ざけるのでしょうか。主よおっしゃって下さい。私が聞きましょう。
(笑い出す。静かな笑い声からだんだんと大きくなる)
フフフ…フフフ…
ハハハ…ハハハ…
わかっております。わかっておりますとも。
このヨセフ、少し戯れてみただけのことでございます。
神の弱さは万人の力よりも強く、神の沈黙は万人の饒舌よりも多くを語ります。
神の沈黙は沈黙でなく、沈黙こそが天を揺るがし地を震わすほどの、神のみことばだということを存じております。
今の私自身が何よりの証拠です。羊飼いの幼い息子を高く上げてエジプトの宰相にまでして下さいました。共におられる神を信じられないはずがないではありませんか。
試練は忍耐を、精錬は謙遜を、沈黙は従順を教えてくださった神に感謝をささげます。
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