第六章 従順 第4話
アセナテに言われるまでもありません。沈黙は私がしたのかも知れませんね。
それでは、私も神の御前でもう口をつぐむのはよしにします。
そうです。アセナテの言う通りです。
私はあの者たちを許しませんでした。許す理由も根拠もありません。
私はただベニヤミンだけを取り戻せればいいと思いました。他の者たちなど…。
だが、不思議ですね。神はなぜ阻むのですか。私が間違っているとでも仰りたいのでしょうか。あのような罪深き者どもの掃きだめからベニヤミンを救い出そうという私の試みは悪でしょうか。
神よ、何を迷っておられます。あなたの約束、アブラハムとの約束はこのヨセフを通して成し遂げればよいではありませんか。あなたが授けて下さった息子マナセとエフライムがいるではありませんか。さあ、ここから天の星々であろうが海辺の砂であろうが、この豊かなエジプトで子孫を増やしていけばいいではありませんか。この豊かなエジプトで…。この豊かな、エジプトで…。
この豊かな?
エジプトで?
神よ、あなたはもしや…。あなたはもしや…!
なるほど、なるほど…。そういうことでしたか。
あなたは初めからこの豊かなエジプトを用意されていたのですね。
何というお方だ。
カナンの地ではなくエジプトでしたか。
あなたはアブラムにこう言われたそうではありませんか。
「あなたは、このことをよく知っておきなさい。あなたの子孫は、自分たちのものでない地で寄留者となり、四百年の間、奴隷となって苦しめられる。しかし、彼らが奴隷として仕えるその国を、わたしはさばく。その後、彼らは多くの財産とともに、そこから出て来る。」
そうでしたか。そうでしたか。
謎が解けました。
|