練習問題『 浮かぶモーツァルトの凄さ 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　モーツァルト・イヤーに関西二期会が上演したのは、ガッツァニーガの「ドン・ジョヴァンニ」（20日、兵庫県尼崎市のアルカイックホール）。モーツァルトの同名作品よりも約8カ月前にヴェネチアで初演されて大ヒットし、ダ・ポンテもモーツァルトのための台本を書く上で参考にしたと言われているオペラだ。同時代の標準的な作曲家による「ドン・ジョヴァンニ」とモーツァルトの(1)それは、一体どこがどう違うのか、興味［　Ａ　］の企画である。
　ガッツァニーガの作品には、モーツァルトの第1幕フィナーレにある宴会の場面がない。第2幕でジョヴァンニと従者が服を交(a)カンするくだりもなく、後半は墓場の場面から始まる。アリアの順番など、モーツァルトがガッツァニーガをほぼ(b)トウ襲している個所が驚くほど多くある一方、筋が錯綜(さくそう)してドラマの緊張が果てしなく高まっていく場面は、すべてモーツァルト／ダ・ポンテによって［ Ｂ ］されたものであったことが、今回の舞台を見てよく分かった。音楽について言えば、これは耳元を心地よく流れていく＊ディヴェルティメントといった風情であって、「［ Ｃ ］」とは呼べないにしろ、ロココ的優雅さにあふれるなかなかの佳作である。
　とはいえ、(2)このガッツァニーガ作品を「それ自体」として観(み)る人はいないだろう。人々は否応(いやおう)なしにそこにモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を重ね合わせるはずである。モーツァルトにあってガッツァニーガにないもの。それは世界が崩壊するがごとき業火のとどろきであり、サディスティックな破壊(c)ショウ動であり、軽快 で優美で残酷な哄笑(こうしょう)であり、とろけるエロスだ。モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」は、ガッツァニーガのようなオペラを見慣れていた当時の人々の常識を粉々に粉砕するような、途轍(とてつ)もなく激越な作品だったのだ。このことを極めて生々しく体感させてくれた今回の公演は、(3)モーツァルトの「凄（すご）さ」に対する何よりのオマージュであった。
　奥村哲也指揮のエウフォニカ管弦楽団および歌手陣は、簡潔ながら当を得た中村敬一の演出ともども、よく練 られたアンサンブルを披露してくれ、とりわけドンナ・エルヴィラ役の木澤佐江子の(d)タン正な歌いぶりが印象に残った。

＊ディヴェルティメント＝18世紀後半に流行した室内楽組曲の一種。嬉遊曲。

　『朝日新聞』06年1月26日付文化「浮かぶモーツァルトの凄さ」岡田暁生氏の文章より

【問１】下線部(a)「交カン」と同じ漢字を含むものはどれですか。交換
　1．雑誌が廃カンになる。
　　（　廃刊　）
　2．カン喜の声をあげる。
　　（　歓喜　）
　3．勇カンに戦う。
　　（　勇敢　）
　4．ドルを円にカン算する。
　　（　換算　）

【問２】下線部(b)「トウ襲」と同じ漢字を含むものはどれですか。踏襲
　1．人跡未トウの奥地。
　　（　未踏　）
　2．周トウに準備する。
　　（　周到　）
　3．主役がトウ場する。
　　（　登場　）
　4．乱トウ騒ぎを起こす。
　　（　乱闘　）

【問３】下線部(c)「ショウ動」と同じ漢字を含むものはどれですか。衝動
　1．不ショウ事が起こる。
　　（　不祥事　）
　2．暗ショウの多い海域。
　　（　暗礁　）
　3．折ショウを重ねる。
　　（　折衝　）
　4．ショウ害物競走に出る。
　　（　障害物　）

【問４】下線部(d)「タン正」と同じ漢字を含むものはどれですか。端正
　1．大タンな行動に出る。
　　（　大胆　）
　2．極タンな意見を除く。
　　（　極端　）
　3．彼はタン白な性格だ。
　　（　淡白　）
　4．タン願書を提出する。
　　（　嘆願　）

【問５】空欄［　Ａ　］に入る言葉として最も適当なものはどれですか。
　1．深々
　2．済々
　3．満々
　4．津々

【解説】「興味津々」とは、興味がつきない様子をいう。「津々」は、あふれ出て尽きないさまを表す。

【問６】空欄［　Ｂ　］に入る言葉として最も適当なものはどれですか。
　1．省略
　2．拡充
　3．継承
　4、再生

【解説】ガッツァニーガ作品が先行し、それを踏襲しながらモーツァルトが同名の作品を作ったが、モーツァルトは作品のドラマ性をより高めた、という文脈を読み取 る。１は、この流れには合わない。３、４は、“より高めた”という要素がないので不適当。

【問７】空欄［　Ｃ　］に入る言葉として最も適当なものはどれですか。
　1．失敗作
　2．標準作
　3．大傑作
　4．模倣作

【解説】空欄後に「とは呼べないにしろ〜佳作である」とあるのに着目する。「〜にしろ」は、ここでは「そうとは呼べないまでも」という意味なので、空欄には、「佳作」よりも優れたものを意味する言葉が入るとわかる。

【問８】下線部(1)「それ」の指示内容として最も適当なものはどれですか。
　1．ガッツァニーガ
　2．ダ・ポンテの書いた台本
　3．ヴェネチアでの初演
　4．「ドン・ジョヴァンニ」

【解説】「ドン・ジョヴァンニ」という同名のオペラで、ガッツァニーガ作品とモーツァルト作品とを比べようとしている文脈。

【問９】下線部(2)「このガッツァニーガ作品を「それ自体」として観(み)る人はいないだろう」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．ガッツァニーガ作品を観ると、否応なしにモーツァルト作品を観てしまうから。
　2．ガッツァニーガ作品を観ると、否応なしにモーツァルト作品と比べてしまうから。
　3．ガッツァニーガ作品は、モーツァルト作品より価値が低いものとして、当時は評価されていたから。
　4．モーツァルト作品は、ガッツァニーガ作品より価値が高いとして、今では評価されているから。

【解説】理由は下線部直後で述べられている。モーツァルトの作品が有名であるがゆえに、現代人は、どうしてもモーツァルトの作品を基準において比較してしまう、ということ。

【問10】下線部(3)「モーツァルトの「凄（すご）さ」に対する何よりのオマージュ」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．モーツァルトの非常識な激しさを証明し、正当化するもの。
　2．モーツァルトのすさまじい情熱を際立たせ、その対極に位置するもの。
　3．モーツァルトの優雅さに対抗して、当時の人々の純粋な素朴さを主張するもの。
　4．モーツァルトの常識を超えた才能を認識させ、賞賛するもの。

【解説】オマージュとは、「敬意、賛辞」という意。ガッツァニーガ作品の上演によって、むしろモーツァルト作品の激しさが引き立ったということであり、筆者はそういう「激越な作品」を作り上げたモーツァルトの「凄さ」を感じている。アは、「非常識」が言い過ぎであり、「正当化」も誤り。イは、「対極」が誤り。ウは、筆者はモーツァルトの作品は「激越」であると述べていることから誤り。