練習問題『 ミドリムシ、君は何？ 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　私は体長0.1ミリのミドリムシ。動物のように自在に動き回るけれども、植物のように光合成もする単細胞生物だ。理科 の時間に顕微鏡で私の仲間を見ながら、「動物か、植物か」と疑問を持った人も多いのではないだろうか。私の「自分探しの旅」の終着駅は、どこにあるのだろうか。
　紀元前4世紀ギリシャの哲学者アリストテレスは、生物を、感覚を持って動き回る動物と、そうでない植物とに分けた。「分類学の父」と呼ばれる18世紀スウェーデンの博物学者カール・リンネも「これでいい」といっていた。
　でも、このころから、動物とも植物とも考えられる私のような生物をどこに分類するのかが問題になってきた。
　19世紀のドイツで動物学者エルンスト・ヘッケルが、動物とも植物とも分類しにくい単細胞生物を「原生生物」としてくれた。これで一応、私の居場所が決まった。［　Ａ　］、そこは「ごみため」か「その他大勢」みたいな、雑多な生物の寄せ集め場所だった。
　20世紀に入り、教科書によく(a)ノっている米国の生物学者ロバート・ホイッタカーの5界説が出た。栄養の取 り方を基準にした分類で、光合成で栄養を生産する多細胞生物を「植物」、その栄養を消費する生物を「動物」、分解するキノコやカビなどの生物を「菌」とした。細胞の核に膜がない細菌（バクテリア）は「モネラ」に入れた。細菌は 原核生物、細胞に核を持つ生物は真核生物と呼ばれる。だが5界説でも、「原生生物」はやはり寄せ集めだった。
　そこに、(1)1次共生という観点から分類を見直す考えが現れた。
　1次共生とは、ある単細胞生物が別の単細胞生物を取り込んで、取 り込まれた生物が中に居着いてしまうことを指す。米マサチューセッツ大アマースト校のリン・マーギュリス教授の考えが有名で、現在はほぼ定説だ。多くの生物の細胞でエネルギー生産にかかわるミトコンドリアは、1次共生 でほかの生物に入り込んだ生物と考えられている。
　さて、約20億年前のある日、地球のどこかで分類学上重要な別の1次共生が起きたらしい。光合成をする藍藻(らんそう)（シアノバクテリア）が別の生物にパクッと食べられ、その中で光合成を始めた。これが 葉緑体の起源と考えられている。
　その後、葉緑体を持つ生物をさらにパクッと食べた私たちミドリムシのような生物や、せっかく取り込んだ葉緑体を失った生物がいることもわかってきた。一方、菌や動物は、 藍藻を1度もパクッとやっていない生物と考えられている。
　日本の国際生物学賞を04年に受けた英オックスフォード大のトーマス・キャバリエスミス教授は、動物と菌、体が決まった形を持たないアメーバの仲間を、それぞれグループとしてくくった。そして、 藍藻を食べたのが1度だけで、葉緑体をなお持ち続けている生物は他と起源が異なると考え、これだけを「植物」とした。
　2度パクッとやった私たちや、コンブなどの仲間、後から葉緑体を失った生物は別扱いとなった。
　彼もいろいろ考えたようだし、それを(b)シ持する遺伝子解析結果も発表されているが、私はがっかりした。相変わらず、「その他」みたいな扱いだからだ。
　［　Ｂ　］最近、希望が見えてきた。東京大の野崎久義・准教授 を研究室に訪ねると、「藍藻を1度パクッとやった生物は、みな植物と呼ぼう」と言ってくれたのだ。
　20億年前のパクッ以降の事情は問わないこの考え方なら、私も植物の仲間。巨大な「超［　Ｉ　］」の提唱である。遺伝子をうまく選んでスーパーコンピューターで解析したら、(2)こちらの考え方のほうがもっともらしいとわかるという。
　現状では「まだ広く受け入れられている説ではない」（井上勲・筑波大教授）らしいが、広く認められれば、私は晴れて分類のごみためから脱出できることになる。
　分類の見直しには学問的興味だけでなく、実(c)リもあるそうだ。
　年間200万人が犠牲になるマラリアを起こす原虫に、葉緑体と同じ起源の色素体が見つかり、植物と共通の祖先を持つことが96年にわかった。大阪大微生物病研究所 の堀井俊宏教授は「原虫が増えるには色素体の存在が必須。原虫を植物としてとらえ、色素体の働きを(d)サマタげる薬を開発することが、マラリア撲滅の 新戦略になるかもしれない」といっている。

『朝日新聞』2007年10月22日付「ミドリムシ、君は何？」より

【問１】下線部(a)「教科書によくノっている」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．ポスターをケイ示する。
　　（　　　　　）
　2．業務を提ケイする。
　　（　　　　　）
　3．制サイを加える。
　　（　　　　　）
　4．千ザイ一遇のチャンス。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「シ持」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．山シ水明の地を訪れる。
　　（　　　　　）
　2．シ唆に富んだ話を聞く。
　　（　　　　　）
　3．収シの報告をする。
　　（　　　　　）
　4．奉シ活動に参加する。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「実リ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．約束をリ行する。
　　（　　　　　）
　2．彼はリ己的な人だ。
　　（　　　　　）
　3．郷リに帰る。
　　（　　　　　）
　4．飛行機がリ陸する。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「サマタげる」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．それは無ボウな挑戦だ。
　　（　　　　　）
　2．雑務にボウ殺される。
　　（　　　　　）
　3．歩行をボウ害される。
　　（　　　　　）
　4．徹底的にボウ備する。
　　（　　　　　）

【問５】空欄［　Ａ　］・［　Ｂ　］に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。
　1．Ａ　だから
　　 Ｂ　すると
　2．Ａ　さて
　　 Ｂ　しかも
　3．Ａ　ときに
　　 Ｂ　また
　4．Ａ　でも
　　 Ｂ　だが

【問６】下線部(1)「1次共生という観点から分類を見直す考え」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．藍藻を食べたか食べなかったか、食べた場合葉緑体が体内に残っているかいないかによって生物を分類すること。
　2．単細胞生物を基点とし、以後どれだけの量の別の単細胞生物を体内に取り込むことができたかによって生物を分類すること。
　3．生物の細胞でエネルギー生産にかかわるミトコンドリアが、どのような仕方で細胞内に入り込んでいるかによって生物を分類すること。
　4．葉緑体を持ったある生物が他の生物の体内に居着き、そこで光合成を始めたか始めなかったかによって生物を分類すること。

【問７】空欄［　Ｉ　］に入る語句として最も適当なものはどれですか。
　1．原生生物界
　2．１次共生
　3．５界説
　4．植物界

【問８】下線部(2)「こちらの考え方」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．葉緑体を持つ生物を2度食べて葉緑体を失ったミドリムシは植物ではないという考えではなく、葉緑体を食べたのだから植物であるという考え方。
　2．葉緑体を失わず、かつ、藍藻を食べたのは1度だけという生物のみが植物であるという考えではなく、藍藻を1度でも食べた生物はみな植物であるという考え方。
　3．藍藻を食べたのが1度か2度かという回数のみで生物を分類するという考えではなく、藍藻を食べた生物はすべてが植物であるという考え方。
　4．現在はほぼ定説となっているリン・マーギュリス教授の分類という考えではなく、野崎久義准教授の藍藻を1度食べた生物は植物であるという考え方。

【問９】本文中の「私」についての説明として適当でないものはどれですか。
　1．少し前までさまざまな生物の分類の仕方があったが、「私」の扱いはいつもあやふやであった。
　2．「私」は分類しにくい生物だが、今後は雑多の扱いから脱出できるかもしれない。
　3．スーパーコンピューターの解析によると、「私」は植物の仲間になるらしい。
　4．「私」は植物であるということが、数年内には広く認知されることになりそうだ。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．葉緑体を持つ生物を食べたミドリムシのような生物は、光合成によって栄養を生産していることから、1次共生という観点から考えると植物であり、別扱 いでなくなるのは時間の問題だと考えられる。
　2．ミドリムシの扱いに対して最近興味深い考えが現れてきており、分類の再確認によって、マラリア撲滅に向けての新たなる道が開かれるという効用もあるかもしれない。
　3．マラリアを起こす原虫は、葉緑体と同じ起源の色素体を持つことから、分類学上は植物だと断言でき、マラリア撲滅のために色素体 の活動を抑える新薬の開発が待たれている。
　4．ミドリムシは動物ではなく植物であるという考えは数世紀の間認知されることなく今日に至っているが、最近新 たな考えが現れてきており、植物に含まれそうだという希望が見えてきた。