練習問題『 月探査機「かぐや」 』

　東京・六本木に芋洗坂（いもあらいざか）という(1)素朴な地名がある。江戸の昔、このあたりに青物屋があり、旧暦8月15日に大量の里芋を商いしたのが由来だ（東都歳時記）。芋は各戸で煮っ転がし、十五夜の月に(a)ソナえた。
　今夜は、芋名月とも呼ばれる中秋の名月。雲(2)さえなければ、日没前の東空に現れる。その山吹色の天体へと今、(3)日本の探査機「かぐや」が向かっている。打ち上げから12日、旅も半ばの頃合いだ。
　「未来の資源庫」への関心ゆえか、世界的に改めての月探査ブームだという。かぐやは、表面の様子や環境を調べて月の起源に迫り、利用価値を探る。首(b)ビよくいけば後々の月面着陸や、有人探査に道が開けるそうだ。
　月の正体が分かるにつれて、神話や俗説は葬られた。そこは荒(c)リョウの世界で、地球から見えない裏手に宇宙人が集結している気配もない。かぐやもまた、(4)薄衣（うすぎぬ）の何枚かをはがすのだろう。
　まだ夢があった頃の『竹取物語』で、かぐや姫は「おのが身はこの国の人にもあらず。月の都の人なり」と明かし、涙のうちに故郷に発（た）つ。恩人の老夫婦が残る地球は穢（けが）れの星。絶えぬ戦争や環境汚染を思えば、なかなかの洞察力だ。かぐやが送ってくる手はずの「地球の出」の動画に、私たちは何を見るだろうか。
　人類は地球の表面をいじり、目先の利便や享楽を追求してきた。いじり尽くした所を都会と称する。こよいは手つかずのあばた面（づら）を見上げ、足元の厚化粧を省みるのも一(d)キョウだ。(5)そんな月見には、芋洗坂を見下ろす不夜城、六本木ヒルズあたりが絶好である。

『朝日新聞』2007年9月25日付　天声人語より

【問１】下線部(a)「十五夜の月にソナえた」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．文房グを購入する。
　　（　　　　　）
　2．食品テン加物について調べる。
　　（　　　　　）
　3．非常食をビ蓄する。
　　（　　　　　）
　4．需要とキョウ給。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「首ビよく」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．容疑者をビ行する。
　　（　　　　　）
　2．耳ビ科に通院する。
　　（　　　　　）
　3．ビ動だにしない。
　　（　　　　　）
　4．褒ビを与える。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「荒リョウの世界」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．燃リョウを補給する。
　　（　　　　　）
　2．本リョウを発揮する。
　　（　　　　　）
　3．清リョウな空気を吸う。
　　（　　　　　）
　4．観客を魅リョウする。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「一キョウだ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．大自然のキョウ異。
　　（　　　　　）
　2．即キョウで演奏する。
　　（　　　　　）
　3．吉キョウを占う。
　　（　　　　　）
　4．妥キョウ案を受け入れる。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「素朴な地名」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．わざわざ長い訓読みにした、愛着を持たせるための地名。
　2．大量の里芋を商いしたという、昔の商業を思い出させる地名。
　3．東京が昔は里芋の産地であったという、古い歴史を感じさせる地名。
　4．大量の里芋を商いしたという、由来をそのまま取り入れた地名。

【問６】下線部(2)「雲さえなければ」と同じ意味・用法の「さえ」を含むものはどれですか。
　1．きみさえそばにいてくれれば、それでいい。
　2．子どもでさえ解ける問題だ。
　3．雨が降っているうえに、雷さえ聞こえる。
　4．水さえのどを通らない。

【問７】下線部(3)「日本の探査機「かぐや」が向かっている」の目的として最も適当なものはどれですか。
　1．月とかぐや姫との関係を明らかにするため。
　2．世界の月探査ブームに乗り遅れないため。
　3．地球の将来的可能性を月から探るため。
　4．月の起源を調べその有効性を探索するため。

【問８】下線部(4)「薄衣（うすぎぬ）の何枚かをはがす」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．まだ全貌（ぜんぼう）が明らかになっていない月の正体について、さらに解明を進めていくこと。
　2．月の正体が明らかになり、これまでのさまざまな神話や俗説に替わって新しい伝説が作られること。
　3．月の表面の様子が明らかになるだけでなく、内部の構造や組成までもが明らかにされること。
　4．月に関する最新のデータが過去のデータを覆し、月の新しい姿を見せてくれること。

【問９】下線部(5)「そんな月見には、芋洗坂を見下ろす不夜城、六本木ヒルズあたりが絶好である」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．芋名月という名称の由来を理解するためには、芋洗坂が見渡せる六本木ヒルズで月を見たほうが効果的であるということ。
　2．現在の私たちの生活を反省するためには、最も都会的といえる六本木ヒルズで月を見たほうが効果的であるということ。
　3．人類にとっての月の利用価値を把握するためには、最も伝統的な六本木ヒルズで月を見たほうが効果的であるということ。
　4．月に向かって飛行を続けている探査機「かぐや」に思いをはせるためには、昼夜の区別がない六本木ヒルズで月を見たほうが効果的であるということ。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．筆者は、月の利用価値を探査機によって探る意義を認めながらも、月に関する神話や俗説がそれによって失われていくことの辛さを、率直に表明している。
　2．筆者は、月と日本人との夢のある情緒的なつながりに言及しながらも、将来における月面着陸や有人探査といった新しい夢の実現を確信している。
　3．筆者は、探査機「かぐや」の今後の任務や役割について述べるとともに、人類が穢（けが）してしまった地球を省みる必要もあることを、皮肉を交えて表現している。
　4．筆者は、地球を穢れの星と見なした『竹取物語』の作者の洞察力に感心するとともに、月の探査機を「かぐや」と命名したその名付けの巧みさにも感心している。