練習問題『 生活の知恵から政策技術へ 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。
　現代の経済学は、アダム・スミス以来、たかだか230年ほどの歴史しか持たない新しい学問だ。経済学が生まれたのと同じころに起きた産業革命で近代資本主義が始まった。そのため経済学は近代資本主義を擁護する学問と考えられがちだが、必ずしも(1)そうではない。経済学の対象となる(2)市場経済という仕組みは人類の歴史と同じくらい古いものだからだ。
　近代の産業文明が始まる以前からある市場経済とは、広い意味で人間社会そのもののことだ。
　「故事成語でわかる経済学のキーワード」（梶井厚志著、中公新書）は、古代中国の古典に題材をとって、経済学の様々な(a)ガイ念 をわかりやすく説明している。
　「他山の石」は分業と交易の重要性を示す故事で、「［　Ａ　］」は、決意の強さを部下に見せることでやる気を高めるシグナリング戦略の実例だ。
　最新の経済学のキーコンセプトが故事成語の中にあるというのは、［　Ｂ　］ような楽しさである。しかし、(3)この本が示しているのはそれだけではない。経済学の対象は古代中国から変わることのない人間社会の普遍的な性質だ、ということなのだ。
　人は誰でも生活していくうえで、家族や友人だけではなく、見知らぬ他人と何らかの交流をせざるを得なくなる。見知らぬ他人同士の交渉の場が「市場」であり、知らない人同士の間でのコミュニケーションや協同作業は、すべて市場経済活動だといってもよい。
　見知らぬもの同士の交流を円(b)カツにする生活の知恵が故事成語だとすれば、経済学はその知恵を理論化 し厳密化しようとする試みだと言えるかもしれない。最新の経済学用語が、故事成語の中に起源を持つのはもっともなことなのだ。
　言いかえれば、分業や市場原理の重要性は古代中国でも現代の日本でも変わることのない人間社会の普遍的な教訓といえる。見知らぬ他人が人間社会をつくっている以上、他人同士が交流する市場経済という仕組みはなくならない。
　規制緩和や民営化などの政策を考えるとき、それらは一時的な流行ではなく、人間社会の本質に根ざした政策課題であることを再確認することは重要だ。
　一方、財政政策や金(c)ユウ政策といったマクロ経済政策の分野では、経済学の役割についての合意はなかなかできないようだ。米国ハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授は、過去半世紀のマクロ経済学の発展を振り返って次のように批判した。マクロ経済学は、理論の厳密化に傾(d)トウしすぎて、現場で役立つ政策技術としての有用性は半世紀の間ほとんど高まっていない、と。
　古来の生活の知恵をいかにして科学的な政策技術にまで高めるか。これからの課題も大きい。

『朝日新聞』07年2月26日付
小林慶一郎のディベート経済「生活の知恵から政策技術へ」より

【問１】下線部(a)「ガイ念」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．大ガイのことには驚かない。
　　（　　　　　）
　2．不正を弾ガイする。
　　（　　　　　）
　3．感ガイはひとしおだ。
　　（　　　　　）
　4．ガイ当する人を探す。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「円カツ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．全体を包カツしてとらえる。
　　（　　　　　）
　2．自由をカツ望する。
　　（　　　　　）
　3．この件は警察の管カツだ。
　　（　　　　　）
　4．カッ走路を延長する。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「金ユウ政策」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．心の余ユウがない。
　　（　　　　　）
　2．時間のユウ通がきく。
　　（　　　　　）
　3．ユウ柔不断な性格だ。
　　（　　　　　）
　4．町に企業をユウ致する。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「傾トウ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．道で転トウする。
　　（　　　　　）
　2．小学校がトウ合される。
　　（　　　　　）
　3．周トウに準備する。
　　（　　　　　）
　4．きれいな歌声にトウ酔する。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「そうではない」の内容として最も適当なものはどれですか。
　1．経済学は近代資本主義と誕生の時期を同じくはしない。
　2．経済学は近代資本主義を擁護する学問である。
　3．経済学は近代資本主義を擁護する学問ではない。
　4．経済学は近代資本主義を擁護する学問だとは考えられていない。

【問６】下線部(2)「市場経済」についての筆者のとらえ方として適当でないものはどれですか。
　1．不滅のもの
　2．他人同士の交流
　3．故事成語で成り立つもの
　4．人間社会自体

【問７】空欄［　Ａ　］に入る、「目的を達成するために苦労を重ねること」という意味の故事成語として最も適当なものはどれですか。
　1．温故知新
　2．臥薪嘗胆
　3．信賞必罰
　4．四面楚歌

【問８】空欄［　Ｂ　］に入る言葉として最も適当なものはどれですか。
　1．目がくらむ
　2．目がまわる
　3．目を奪われる
　4．目からウロコが落ちる

【問９】下線部(3)「この本」の説明として適当でないものはどれですか。
　1．経済学の対象が、古代中国から不変な人間社会共通の性質であると説明している。
　2．「他山の石」は、貿易による国家収益の重要性を表す言葉であると説明している。
　3．最新の経済学の重要な考えが、故事成語の中にあることを示している。
　4．古代中国の古典を素材として、経済学の理論を説明している。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．協同作業や市場原理の重要性は、変化することのない人間社会の普遍的なものであることを認識し、政策を考えるにあたっては地域社会に根ざしてもらいたい。
　2．経済学の発展については批判の声もあり、今後いかにして現場で役立つ政策技術を導き出すことができるかに世界経済の行方はかかっている。
　3．経済学は生活の知恵を理論化し厳密化しようとするものかもしれないが、今後この知恵をいかに科学的な政策技術へ高めるかという課題が残されている。
　4．市場経済は人類の歴史と始まりのときを同じくしているが、活動内容は、家族や友人との交わりから知らない人とのコミュニケーションへと変化してきている。