練習問題『 北極異変 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　温暖化で夏の北極から氷が消えるかもしれない。そうした報告を米国の国立大気研究センターなどのチームがまとめた。
　大気中で二酸化炭素などの温室効果ガスが今のまま増え続ける、と(a)カ定した場合のスーパーコンピューターの試算だ。9月の北極海を覆う氷について7通りの予測をしたところ、うち一つでは、20年代半ばからの10年間で面積が一挙に3分の1に激減し、40年までに氷がほとんどなくなるという結果になった。
　地球の環境変動は、大気や海、陸などが影響し合う。こうした「複雑系」と呼ばれるシステムは、劇的な変化に見舞われやすい。試算でも、(1)それが表れた。
　(2)北極圏は、地球環境をのぞく「窓」になる。陸地の雪が解けると、露出した地面が暖まり、気温が上がってまた雪が解ける。そんな仕組みなどが働いて、温暖化が増(b)フクされて見えるからだ。地球の未来を知るために、北極は目が離せない。
　今回の報告に対しては、スパコン予測を絶対視するな、という見方もあろう。温暖化傾向を温室効果ガスのせいだけにすることに(c)カイ疑的な科学者もいる。検証のためにも実際の観測が求められる。
　幸い、観測態勢は整いつつある。
　ノルウェー領スバールバル諸島には、同国が90年に呼びかけて誕生した国際観測村がある。日本を含む9カ国が基地を設け、大気の観測や動植物の観察などをしている。米アラスカ州にも、日米科学技術協力協定で90年代末に設立された国際北極圏研究センターがある。
　北極圏は、かつて東西対立で分断されていたが、今では北米、ロシア、北欧が環状の観測包囲網を築けるようになった。冷戦終結の直後に開村した国際観測村は、(3)その象徴だ。国境なき観測が続く［ Ａ ］に比べれば出遅れたが、極地への関心は北にも向けられる時代になった。
　朝日新聞は今年、「北極異変」と題する企画記事を載せてきた。記者がグリーンランド、北欧、米アラスカ州、ロシア・シベリアの現状を報告した。
　たとえば、米アラスカ州西部のシシュマレフ島では、海岸の浸食で家屋倒壊の被害も出始め、住民が村ごと本土に移住する計画を立てていた。海が凍る期間が縮まり、高波が永久凍土を削るようになったためだという。
　ノルウェー近海では、メキシコ湾流の水温が60年間で約0.7度上がり、魚や鳥の生(d)ソク域に変化が表れている。
　これらの報告からもわかるように、北極圏には南極圏と異なり、人々の生活がある。環境変化は科学者だけでなく、住民も実感できる。去年、グリーンランドで開かれた国際会議で自治政府の(4)ハンス・エノクセン首相は、気候変動を知るのに「科学者である必要は
ない」と述べた。経験を積んだハンターや漁業者なら、それに気づくというのだ。
　住民と科学者が力を合わせる。北極圏を、そんな新しいスタイルの地球環境監視の舞台にしたい。

『朝日新聞』2006年12月30日付　社説「北極異変」より

【問１】下線部(a)「カ定」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．力をカ減する。
　　（　　　　　）
　2．カ労で倒れる。
　　（　　　　　）
　3．ウオーキングを日カとする。
　　（　　　　　）
　4．30分だけカ眠をとる。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「増フク」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．薬のフク作用を説明する。
　　（　　　　　）
　2．全プクの信頼を寄せる。
　　（　　　　　）
　3．至フクの喜びを得る。
　　（　　　　　）
　4．家具の傷を修フクする。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「カイ疑的」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．政敵をカイ柔する。
　　（　　　　　）
　2．政治問題にカイ入する。
　　（　　　　　）
　3．カイ目見当がつかない。
　　（　　　　　）
　4．カイ諾を得る。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「生ソク」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．無病ソク災
　　（　　　　　）
　2．本の返却を催ソクされる。
　　（　　　　　）
　3．規ソク正しい生活。
　　（　　　　　）
　4．行動をソク縛する。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「それ」の指示内容として最も適当なものはどれですか。
　1．環境変動
　2．大気や海、陸
　3．「複雑系」
　4．劇的な変化

【問６】下線部(2)「北極圏は、地球環境をのぞく「窓」になる」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．北極圏は、雪が解けると雪で隠れていた地表が広範囲に現れるので、温暖化の進行状態がはっきりわかる場所といえるから。
　2．北極圏は、陸地の雪が解けると気温が上がり、そのことによってまた雪が解けるというように、温暖化がより顕著に現れる場所といえるから。
　3．北極圏は、「複雑系」と呼ばれるシステムに発生した異常事態を、雪解けという一つの現象のみで端的に示してくれる場所といえるから。
　4．地球の環境変動は北極圏から始まるので、温暖化の観測をするのに最もふさわしい場所といえるから。

【問７】下線部(3)「その象徴」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．北米、ロシアなど日本を含む9カ国が観測包囲網を築けたしるし。
　2．極地への関心が北に向けられる時代になったしるし。
　3．温暖化の観測態勢が北極圏で整いつつあるしるし。
　4．東西冷戦が終結し、かつて対立していた国々が観測包囲網を築けたしるし。

【問８】空欄［　Ａ　］に入る語として最も適当なものはどれですか。
　1．北米
　2．北極
　3．南極
　4．南米

【問９】下線部(4)「ハンス・エノクセン首相」の考えとして最も適当なものはどれですか。
　1．科学者でなくとも、住民の中に気候変動を知る者がいる。
　2．住民と力を合わせなければ、科学者の会議は意味がない。
　3．科学者も住民と同等の経験を積んで、気候変動を知るべきである。
　4．科学者の議論よりも、観測態勢の整備を優先すべきである。

【問10】本文の内容に合わないものはどれですか。
　1．地球の環境変動をよく知るためには、北極圏から目を離すことはできない。今後は、スパコンによる予測を検証するためにも、北極圏における観測態勢の充実が求められる。
　2．地球の環境変動は進みつつあり、すでに海岸の浸食や海水温度の上昇などの変化が見られる。北極圏における、住民と科学者との協力という新しい態勢での地球環境監視が望まれる。
　3．温暖化傾向を温室効果ガスのせいだけにすることに疑いを持つ科学者もいる。そのことを検証するためにも、ノルウェーの呼びかけで生まれた国際観測村 などによる観測が今後求められる。
　4．地球の環境変化がこのまま進んだ場合を試算したスパコンの予測に対しては、多少の違った見方もあるだろうが、「複雑系 」と呼ばれるシステムも総合して考えると結局は正しいものであるといえる。