練習問題『 ビッグバン宇宙論 』

【問題】次の文章は『ビッグバン宇宙論』（サイモン・シン著）の書評である。これを読んで、後の問いに答えよ。

　誰もがその重要さを知りながら、意外に軽視されがちなのが、(a)ボウ頭の書き出しである。大上段に構えるべきか、さりげないエピソードから始めるべきか、大作であればあるほど、その選択は難しい。
　数学もののノンフィクション2作を物しただけですでに大家の呼び声高いインド系英国人サイエンスライターの著者は、読者の［　Ａ　］をくすぐる書き方を選んだ。
　広大な宇宙の片隅でその起源について考えをめぐらす知恵と剛胆（ごうたん）さを備えた生物種の一員にして、しかも天地創造の秘密を解き明かしたエレガントな理論がほぼ出そろった特別な世代に属するあなたは幸運だというのだ。
　「さらにすばらしいことに、ビッグバン・モデルは誰にでも理解できる」との挑戦状を突きつけられたなら、これはもう、先を読み進むしかないだろう。
　ただし本書は、宇宙創成を説明するビッグバン理論の解説書ではない。むろん、通読すればビッグバン理論の全容に触れることにはなる。しかし、そのような、いわゆる解説書はすでにあまた存在する。サイモン・シンが本書で描きたかったのは、突飛（とっぴ）ではあるが(b)ソウ大な科学理論が想起され、［　Ｂ　］曲折を経て通説として定着してゆく過程、すなわち科学革命の一例としてのビッグバン理論だった。
　革命的な科学理論がたどる運命は、最初は「ばかばかしい理論」としてスタートし、「もしかしたら正しいかもしれない」と受け入れられ始め、最後は「あたりまえの考え方」として定着するというものだ。
　天文学における最大の科学革命は、地動説の受容だった。(1)コペルニクスの地動説は、当初は無視された。無名のコペルニクスの説は常識に反しており、しかも当時主流の天動説に比べると、天体の動きを予測する(c)セイ度が低かったからである。その当時にあっては、天動説のほうが合理的な考え方だったのだ。
　地動説は最終的に勝利を収めたわけだが、ビッグバン理論も似たような道をたどった。そもそもこの理論は、アインシュタインの一般相対性理論をさらに一般化する過程で提案された。ただし提案者はアインシュタインではない。それどころか、永遠に存在してきた静的な宇宙という「常識」に縛られていたかの大天才は、後にビッグバン理論と呼ばれることになった「膨張する宇宙論」に、当初は異を(d)トナえていた。
　結局のところ、いかに革命的な理論でも、データによって実証されないことには定説として受け入れられはしない。(2)それが実証されるには、観測技術の進歩を待たねばならない。データによって裏づけられても、難癖を付け、受け入れを頑（かたく）なに拒む科学者は常に存在する。最終的には、守旧派世代の退席を待つしかないのだ。
　ビッグバン理論で宇宙の謎のすべてが解けたわけではない。しかし、(3)ビッグバン宇宙論は、人間の知性が達成しえた輝かしい知的到達点の一つである。したがって、その知的葛藤（かっとう）の歴史は大いに知る価値がある。だからこそ本書は書かれるべくして書かれた。

『朝日新聞』2006年8月6日付　読書「『ビッグバン宇宙論／サイモン・シン』革命的な科学理論が定着するまで」渡辺政隆氏の文章より

【問１】下線部(a)「ボウ頭」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．酸素が欠ボウする。
　　（　　　　　）
　2．ボウ険に出発する。
　　（　　　　　）
　3．ボウ略をめぐらす。
　　（　　　　　）
　4．裁判をボウ聴する。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「ソウ大な」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．同ソウ会に出席する。
　　（　　　　　）
　2．ソウ重な音楽が流れる。
　　（　　　　　）
　3．服ソウが乱れる。
　　（　　　　　）
　4．悲ソウな決意を固める。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「セイ度」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．セイ裁を加える。
　　（　　　　　）
　2．手セイのマフラーを贈る。
　　（　　　　　）
　3．少数セイ鋭で仕事をする。
　　（　　　　　）
　4．過去をセイ算する。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「トナえて」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．物価が上ショウする。
　　（　　　　　）
　2．校歌を斉ショウする。
　　（　　　　　）
　3．無ショウで奉仕する。
　　（　　　　　）
　4．伝統を継ショウする。
　　（　　　　　）

【問５】空欄［　Ａ　］に入る語として最も適当なものはどれですか。
　1．自尊心
　2．道徳心
　3．信仰心
　4．老婆心

【問６】空欄［　Ｂ　］に入る語として最も適当なものはどれですか。
　1．悠々
　2．理非
　3．厭離
　4．紆余

【問７】下線部(1)「コペルニクスの地動説は、当初は無視された」の理由として適当でないものはどれですか。
　1．天動説のほうが、当時は理屈に合った考え方だったから。
　2．地球は不動であるという考えは、当時の常識に反していたから。
　3．天動説のほうが、天体の動きをおしはかりやすかったから。
　4．コペルニクスが無名であったうえに、ばかばかしい説だったから。

【問８】下線部(2)「それ」の指示内容として最も適当なものはどれですか。
　1．定説
　2．データ
　3．ビッグバン理論
　4．革命的な理論

【問９】下線部(3)「ビッグバン宇宙論は、人間の知性が達成しえた輝かしい知的到達点の一つである」に込められた筆者の思いとして最も適当なものはどれですか。
　1．革命的な科学理論は、最初はばかばかしいと無視され、しだいに実証されて常識となっていくという過程をたどるが、そこに多くの時間が費やされるのは仕方がないという感慨。
　2．ビッグバン理論は、天文学における最大の科学革命であった地動説と似たような歴史的経過をたどり、アインシュタインの一貫した反対をも乗りこえて大成されたものであるという感慨。
　3．想起されたときは突飛な理論ではあっても、その後の観測技術の進歩と得られたデータによって実証され、宇宙の起源と進化を説明できる理論が今やっと確立できたという感慨。
　4．広大な宇宙の中の地球という星に生まれた人類が、自らの存在の原点たる宇宙創成の物語をやっと解き明かすことができ、それを理解しやすく著した本を手にすることができたという感慨。

【問10】本文の内容として適当でないものはどれですか。
　1．『ビッグバン宇宙論』は、宇宙がどのようにして創成されたかを解説する書ではなく、ビッグバン理論がどのようにしてできたか、そしてどのような過程で一般的な理論として認められるようになったかを記した書である。
　2．革命的な科学理論が一般的な常識となるまでには、歴史的な知的葛藤の跡が見られ、科学者や宗教者との意見の対立もあるが、最終的には守旧派世代の退席を待つという時間的経過が必要となる。
　3．ビッグバン理論は、アインシュタインの一般相対性理論を基に発想されているが、当のアインシュタイン自身は、宇宙は永遠に存在する静的なものであると考えていたために、この理論にはじめは反対していた。
　4．地動説にしろビッグバン理論にしろ、はじめはとんでもない理論だと無視されて受け入れてはもらえなかったが、やがて観測技術の進歩とデータによる実証によって裏づけられ、科学的事実として証明され認知されてきた。