練習問題『 第一印象は潜在的判断 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　初めて会ったのに、人は瞬時に「好みのタイプ」と思ったり、「(1)いかがわしいやつ」と警(a)カイしたりする。「第一印象」は、脳のどこでつくりだされるのだろうか。
　米カリフォルニア工科大の下條信輔教授らは、人が顔写真を見たとき、［　Ａ　］を、機能的磁気共鳴断層撮影（fMRI）で調べた。
　AさんとBさんの顔を順番に、一定の間隔をおきながら繰り返し見せて、どちらが好みのタイプかを決めたらボタンを押してもらう。
　すると、好みのタイプの顔を見ると、脳の内側の「側座核」と呼ばれるところの活動が瞬時に高まった。
　側座核は「動物がエサや大好きなジュースをもらって喜んでいるときに活動する領域」（下條さん）だ。それが人では好みの顔に自動的に反応してしまうらしい。
　ところが、好みを決めてボタンを押す時間が近づくと、「眼窩（がんか）前頭皮質」という別の領域が活動し始めた。好みのタイプかどうか、側座核が判断して発信した情報も使いながら、「眼窩前頭皮質」でどちらがよいか、最終的に決めていると考えられた。
　初対面の人が自分にとって好ましいかどうかを瞬時に見分けることは、人が生き延びていくうえで重要だったに違いない。そのために、最初の判断は素早く行われ、(2)処理される。しかも、本人が無意識のうちに、自動的に。
　このような「潜在的」な脳の働きは、ほかにも膨大にあることが、最近の研究でわかってきた。しかも、それらは人の行動に極めて大きな影響を与えているらしい。
　(3)脳科学のこうした成果をマーケティングに応用できないか、と考える人もでてきた。
　ドイツでコンサルタント会社を設立したクリスチャン・シャイアさんは昨年、来日して(b)コウ演し、「人の意思決定のプロセスのほとんどは潜在的だ」と強調した。
　シャイアさんによると、消費者はわれわれが考えているほど合理的に行動しているわけではない。たとえば、あるブランドを選んだ理由を消費者にたずねると、「価格が安いから」といった合理的と思える答えをあげる。
　本人は、それが理由だと真(c)ケンに思っている。しかし、脳の潜在的な働きを考えると、本当の理由は「隣の人が使っていたから」かもしれない。
　そうなると、40歳の人が青い自動車を買った理由も、たとえば5歳の時にもっていたおもちゃの色までさかのぼらないとわからない、といったこともあり得る。
　これまで、消費者の欲望は注意を(d)カン起すれば引き出せると考えられてきた。しかし、シャイアさんの考えは逆だ。
　「人はそもそも欲しいものにしか注意を払わない」
　しかも、本当に欲しいものは、その人さえ自覚できないところで自動的に決まっているのかもしれない。
　潜在的な脳の働きの解明がすすめば、(4)「私」の自由意思による行動の責任は「私」がとるという現代社会の前提さえ、揺さぶられかねない。
　「だれも侵入できない私だけの神聖な領域」だったはずの脳に「私」がアクセスできない情報がある。それが機械なら読み取れるのではないか。fMRIがとらえた「好みの顔」への脳の反応は、そんな可能性を示している。
　fMRIで脳の働きを調べている国際電気通信基礎技術研究所（ATR）の神谷之康さんは「人間観に大きな変化をもたらすかもしれない」という。

『朝日新聞』2008年4月8日付
「心をのぞく2　第一印象は潜在的判断」より

【問１】下線部(a)「警(a)カイ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．カイ諾を得る。
　　（　　　　　）
　2．友人を紹カイする。
　　（　　　　　）
　3．カイ疑の目を向ける。
　　（　　　　　）
　4．カイ律を守る。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「コウ演」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．救命救急のコウ習を受ける。
　　（　　　　　）
　2．彼は温コウな人柄だ。
　　（　　　　　）
　3．文章をコウ築する。
　　（　　　　　）
　4．期待と不安がコウ錯する。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「真ケン」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．光熱費をケン約する。
　　（　　　　　）
　2．ケン術を学ぶ。
　　（　　　　　）
　3．世界を冒ケンする。
　　（　　　　　）
　4．定期的に点ケンする。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「カン起」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．カン心を買う。
　　（　　　　　）
　2．難しい言葉をカン言する。
　　（　　　　　）
　3．これ以上はカン弁できない。
　　（　　　　　）
　4．証人カン問を要求する。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「いかがわしいやつ」の意味として最も適当なものはどれですか。
　1．あまりにも立派な人物。
　2．どうも信用できない人物。
　3．ひどく恐ろしい人物。
　4．何かと気遣いする人物。

【問６】空欄［　Ａ　］に入る語句として最も適当なものはどれですか。
　1．どういうタイプの顔が一般的に好まれるのか
　2．脳の働きにおいて動物の脳とどう異なるのか
　3．目から脳へと神経がどうつながっているのか
　4．脳の活動領域が時間とともにどう変化するのか

【問７】下線部(2)「処理される」と同じ意味・用法の「れる」を含むものはどれですか。
　1．時節柄ケーキがよく売れる。
　2．大勢の人に笑われる。
　3．商店街はますますさびれるだろう。
　4．先生が自らの体験を話される。

【問８】下線部(3)「脳科学のこうした成果をマーケティングに応用できないか」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．人の脳には潜在的な能力が膨大にあり、研究によって解明されたそれらの能力を新たな市場開拓に活用しようとすること。
　2．人の脳には潜在的な能力が膨大にあり、その研究を推進するために新たな会社を設立しようとすること。
　3．人の潜在的な脳の働きを解明することにより意思決定のプロセスを明らかにし、それを消費活動にも利用しようとすること。
　4．人の潜在的な脳の働きを解明することによって、その研究成果を商品として市場に売り出そうとすること。

【問９】下線部(4)「「私」の自由意思による行動の責任は「私」がとるという現代社会の前提さえ、揺さぶられかねない」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．人はだれでも他者の知らない潜在的な脳の働きを持っており、その行動は本質的に他者に対して負うべき責任を免れているから。
　2．行動の基盤である潜在的な脳の働きはだれもが共通に備えており、自由意思による「私」の行動の責任も個人には問えなくなってしまうから。
　3．人の行動には脳の潜在的な働きが強く関与しており、その行動において責任をとるべき自分の意思の存在が考えられなくなってしまうから。
　4．潜在的な脳の働きの中には「私」の自由意思が存在しており、その行動は本質的に自分に対して負うべき責任を免れているから。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．人の意思決定のプロセスのほとんどは潜在的なものであり、あるブランドを選んだ消費者が「安いから」という合理的な理由を答えることも本人の自由意思ではなく、無意識に行われる脳の潜在的な働きによるものである。
　2．最近の研究で、潜在的な脳の働きが人の行動に大きな影響を与えるらしいことがわかってきたが、今後さらに脳の働きについて解明がすすめば、人間観に大きな変化をもたらす可能性も出てくる。
　3．初対面の人が自分にとって好ましいかどうかを見分けることは、人が生き延びるうえで重要なことであるため、好みの顔に自動的に反応する脳の側座核という部分は、他の部分に比べて著しい進化を遂げたと考えられる。
　4．人の脳の中で「第一印象」をつくりだすのは「眼窩前頭皮質」という領域であるが、これは動物が大好きな飲食物を与えられて喜ぶときに活動する領域とまったく同じであることが解明されている。