練習問題『ガラクタ集め　世界見つける手段だった』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　虫捕り網を手に野山を駆け回ったり、サイダーの王冠を拾い集めたり……。
　テレビゲーム「ぼくのなつやすみ」は1975年の夏休みを、遊び手が主人公の男の子になりきって追体験できる。「バッタばかり捕って、虫 かごにぎゅうぎゅう詰めていた」少年だった、65年生まれのゲームデザイナー綾部和さんの体験をもとに生まれた。
　「［　Ａ　］に集めるだけで楽しんでいた、［　Ｂ　］を思い出すゲームにしたかった」。郷愁への共感からか、00年から 今夏の最新作まで、シリーズの(a)ルイ計売り上げは120万本に及ぶ。
　かつて男の子は王冠やビー玉といったガラクタを集めたものだった。聖学院大の森下みさ子准教授（児童文化）は、大人には価値のないガラクタを通して、子供 は子供なりに現実世界を解釈しているという。王冠はお金に、ビー玉は宝石に、小さな頭のなかで変換がなされていた。
　(1)いま幼児期を過ぎてなおガラクタを集める子を見かけなくなった。かつての定番、切手やコインの収集も下火になっているらしい。
　ガラクタに代わり、いま子供たちが集めているのは「ムシキング」か。近場にいなくなった昆虫の代わりはカード。ゲームセンターなどに置かれた機械を使い、カードに描かれた数値を元にカブトやクワガタを戦わせる。03年以来、根強い人気でカード発行枚数は4億枚を超えた。ガラクタとは違い、集めることも目的として生まれた商品だ。
　森下さんは「高度成長以降、テレビの(b)フ及とともに、大人の現実世界から切り離された子供の収集文化が生まれた。全国の子供 が共有する虚構世界のなかで、キャラクターのついたモノへの価値観が育まれていった」と語る。
　ガラクタ集めとの違いはほかにもある。「ぼくなつ」の綾部さんが挙げるのは「コンプリートへの意識」だ。コンプリートとは完全収集。綾部さんにとっての(2)洗礼は71年発売の「仮面ライダーカード」だ。菓子のおまけについたカードに固有の番号がふられ、当たりが出れば整理用アルバムをもらえた。「番号があるから欠番 がわかり、空白を埋めたくなる欲求が増した。友達と交換すれば、全部集めるのも夢でなかった」
　収集は世界を見つける手段だった。しかしコンプリートはあらかじめ世界を与えた。ライダーカードの子孫は90年代から「戦う」カードとして子供文化 を席巻している。ポケモン、遊戯王、そしてムシキング……。
　「80年代のビックリマンまでは、(3)虚構世界であっても世界を把握しようとする外向きの意識があった気がします。カードゲームはカードというモノでなく、自分に(c)ソウ備するデータを集めているよう」と 森下さん。
　ビックリマンはシール一枚一枚に物語の断片が記され、集めるほどに大きな物語が浮かび上がる仕掛けで人気を(d)ハクした。対して、物語より対戦が優先されるゲームカードは虚構世界を生き抜くためだけの内向きのコレクションにみえる。
　「ガラクタ収集は外部への扉。集めるには他人と接触しなければならない。収集物に意味づけする説明能力も必要になる」と話すのは『コレクターシップ』の著者で評論家の 長山靖生さんだ。
　(4)モノ集めは一種の「自分探し」という。自分にとって狂おしいものがあり、リストを作り、枠を決め、自分なりの目標を設定する。「収集物は鏡のように自分の姿を映す。コレクションは、“他者”からの視線でもあるのです」
　しかし、ネット社会の現代はガラクタ収集に厳しい時代かもしれない。たいていのモノは先達がホームページで成果を披露している。どんなガラクタもオークションに出品されれば相場ができる。多くのコレクションは「コンプリート済み」として売り出されている。「♪もともと特別なオンリーワン」なんて歌われても、この浮世において独自性を保つのは難しい。
　長山さんはいう。「集めたガラクタから“自画像”を作るなんて手間はしんどい。ならば、手軽にコンプリートできる箱庭のような収集で身を飾り、“自分らしさ”を演出する方が、現代を楽に生きられるのでしょうか」

『朝日新聞』2007年8月7日付
文化「ガラクタ集め　世界見つける手段だった」より

【問１】下線部(a)「ルイ計」と同じ漢字を含むものはどれですか。累計
　1．ルイ似品を押収する。
　　（　類似　）
　2．ルイ審の判断に従う。
　　（　塁審　）
　3．感ルイにむせぶ。
　　（　感涙　）
　4．赤字がルイ積する。
　　（　累積　）

【問２】下線部(b)「フ及」と同じ漢字を含むものはどれですか。普及
　1．将来へのフ石を打つ。
　　（　布石　）
　2．フ通預金の口座を開く。
　　（　普通　）
　3．離島にフ任する。
　　（　赴任　）
　4．楽フを読む。
　　（　楽譜　）

【問３】下線部(c)「ソウ備」と同じ漢字を含むものはどれですか。装備
　1．ソウ絶な戦いを繰り広げる。
　　（　壮絶　）
　2．子供の情ソウ教育に取り組む。
　　（　情操　）
　3．プレゼントを包ソウする。
　　（　包装　）
　4．学校のソウ立記念日。
　　（　創立　）

【問４】下線部(d)「ハクした」と同じ漢字を含むものはどれですか。博した
　1．ハク学をひけらかす。
　　（　博学　）
　2．惜しみないハク手を送る。
　　（　拍手　）
　3．彼は軽ハクな人間だ。
　　（　軽薄　）
　4．ハク害を受ける。
　　（　迫害　）

【問５】空欄［　Ａ　］・［　Ｂ　］に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。
　1．Ａ　得意
　　　Ｂ　真意
　2．Ａ　無心
　　　Ｂ　童心
　3．Ａ　純情
　　　Ｂ　熱情
　4．Ａ　強欲
　　　Ｂ　意欲

【解説】
空欄前の段落の「遊び手が〜生まれた」と、直後の「郷愁への共感」という表現から、「少年」時代への「郷愁」を刺激するといった内容の言葉 が入ることがわかるので、２が正解となる。

【問６】下線部(1)「いま幼児期を過ぎてなおガラクタを集める子を見かけなくなった」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．かつての男の子がしていたなつかしい遊びを、テレビゲームで簡単に追体験できるようになったから。
　2．サイダーの王冠やビー玉といったガラクタそのものが、身の回りから姿を消してしまったから。
　3．ガラクタを頭のなかで価値あるものに変換し現実世界を解釈する能力が、次第に失われていったから。
　4．テレビの影響によって、子供が共有する虚構世界でのキャラクターがついたモノに価値を見いだすようになったから。

【解説】
下線部の理由は第七段落に述べられている。１は、「ぼくのなつやすみ」のようなテレビゲームの出現が下線部の理由ではないので不適当。２は、「ガラクタそのものが〜姿を消してしまった」が本文に述べられていない。３は、「能力が〜失われていった」が誤り。

【問７】下線部(2)「洗礼」の本文中での意味として最も適当なものはどれですか。
　1．めったにない機会
　2．初めての経験
　3．思い出したくない記憶
　4．突然の衝撃

【解説】
「洗礼」とは、本来はキリスト教信者となるときに行う儀式のことであるが、転じて、生き方や考え方に大きな影響を及ぼすような初めての経験のことを意味する。

【問８】下線部(3)「虚構世界であっても世界を把握しようとする外向きの意識があった」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．収集する対象は非現実的な世界のものではあるが、そこには虚構世界と大人とを結びつけるような意識があったということ。
　2．収集する対象は非現実的な世界のものではあるが、そこには虚構世界を大人の現実的な視点からとらえようとする意識があったということ。
　3．収集する対象は非現実的な世界のものではあるが、そこには虚構世界を子供なりに究めさせようとする意識があったということ。
　4．収集する対象は非現実的な世界のものではあるが、そこには現実世界と子供とを結びつけるような意識があったということ。

【解説】
下線部の「世界」とは、「現実世界」のことである。収集の対象となるのは虚構の世界のものであるが、そこには現実世界へとつながる要素があるという文脈を押さえる。１は「虚構世界と〜意識」、２は「虚構世界を〜意識」、３は「虚構世界を〜意識」がそれぞれ誤り。

【問９】下線部(4)「モノ集めは一種の「自分探し」という」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．モノ集めは、自己の意志に基づく自己発見の行為と言えるから。
　2．モノ集めは、自己の苦悩に基づく自己開発の契機と言えるから。
　3．モノ集めは、他者からの視線を必要とする自己評価の機会と言えるから。
　4．モノ集めは、他者からの啓発を必要とする自己実現への過程と言えるから。

【解説】
下線部を含む段落に着目する。「モノ集め」には自分そのものの姿が表れるという点を押さえた１が正解となる。２は「自己開発の契機」、３は「他者からの視線を必要とする」、４は「他者からの啓発を必要とする」が、それぞれ誤り。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．一枚一枚に固有の価値を持たせ、子供にコンプリートの夢を抱かせた「仮面ライダーカード」は、それ自体に物語性 はなく、虚構世界を本質とした内向きのコレクションである。
　2．物語より対戦を優先するゲームカードは、収集の際に相手との接触がほとんどなく、現実世界を虚構のものとしてひとりで生き抜いていくための能力を育むコレクションである。
　3．大人には価値のないモノを集めるガラクタ集めは、現実世界につながる疑似体験の機会を子供に与えるという効果はあるが、集めることだけを目的とするコレクションではない。
　4．「ビックリマンシール」は、切手やコインの収集と同じように、集めれば集めるほどその世界が広がっていくもので、収集物として大変もてはやされたコレクションである。

【解説】
１は、「内向きのコレクション」が誤り。２は、「現実世界を〜育む」が本文にない。４は、「切手やコインの収集」について「集めれば集めるほどその世界が広がっていく」という内容が本文からは読み取れないので、不適当。