練習問題『 テレビはどこへゆく 』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　平日朝8時。この時間からの情報番組で、6年連続で月間視聴率首位の「とくダネ！」（フジテレビ情報制作センター制作）は、2時間弱の間に計7、8本、芸能 から政治経済まで幅広く扱う。今ではワイドショーの政経ネタは珍しくないが、99年4月の開始時は異(a)ショクだった。
　当時から制作にかかわる宗像孝チーフプロデューサーは「女性が多い時間帯に、政治経済ネタは視聴率が取れないという声は局内にもあった」が、「田中真紀子 」対「外務省」など、たまたまテレビ向きの話題が続いたと振り返る。ただ8年続けた実感は「年金問題などハードな内容の方が見られている」。
　定時ニュースは一つの話題が数分程度だし、放送までの準備時間も短い。情報番組 は取材映像を吟味して編集し、たっぷり使える。スタジオ出演者のコメントなどもあって、硬い話題も興味を引く仕立てがしやすい。それでも、意味ありげな音楽や「号泣 」などの大仰な表現を「とくダネ！」は避ける。「現実より派手に見せるのは格好悪い」（宗像さん）からだ。
　慶応大メディアコミュニケーション研究所の萩原滋副所長は、(1)テレビは生活の一部として「ながら視聴」する対象で、日常から隔絶 した堅苦しい内容は期待されていないと指摘する。［　Ａ　］番組の作り手は面白みや親しみのある素材を並べ、字幕なども駆使して娯楽性を追求する。同研究所 が行った調査でも、人々は演出の(b)カイ在を承知で見ているという理解だった。
　［　Ｂ　］テレビが繰り返し提示する価値判断は、知らず知らず視聴者に刷り込まれる。「映像は言葉以外 にも大量の情報を含み、画面に登場した人の表情や字幕ばかりに注意が向いて、本質が伝わらないことがある」と、萩原さんはテレビはその影響力を自覚してほしいと言う。
　(2)この10年、政治家はテレビを大いに利用したと東京大の蒲島（かばしま）郁夫教授（政治学）は言う。自民党政治 にとって「投票に行く人」は農村の住民だった。経済成長の果実を都市より農村に重点配分し、強い支持を得た。結果として発展と平等が両立し、元々が農村部出身 だった都市住民も不満を感じなかった。だが、経済の停滞で状況は一変。農村部に回せる果実が減り、政権維持には都市部 の無党派層を無視できなくなった。「政治家はこの層に近づく格好の手段としてテレビを“誘惑”した。テレビは視聴率 を上げたいから娯楽には貪欲（どんよく）。そんなテレビの特性を小泉前首相は巧みにとらえ、政治メディアを一気にソフト化した」
　例えば、05年の総選挙は「造(c)ハン組と刺客」の対決ドラマにすり替えられた。そのため、政治に無関心な層までが動いて投票率は上がったが、有権者の多くは結果的に 小泉政権の改革路線を承認した形になった。
　(3)衆愚政治を危ぶむ声もあるが、蒲島教授は「都市若年層 の利益がやっと政策の対象になった。長期的には、政治の参加者は多い方がいい」と考える。投票結果が不本意な現実を招いたと感じている人たちに「次は業績を見極 めて投票を」と訴えたいという。「テレビは、政治への深い関心を呼び起こす番組作りにも取り組んでほしい」
　京都大 の佐伯啓思教授（社会思想史）は「大衆メディアであるテレビと『民主主義』が結びつけば、必然的に政治はこうなる」と危機感を募らせてきた。人々は自分で考えるのが面倒だから、テレビの 言説を鵜呑（うの）みにし、その世論が政治を左右する。「しかしもっと本質的な問題は、(4)政治家とメディアとの距離感だ」
　例えば「9・11」テロ後の米国大統領は、イラク攻撃を支持する国民感情の一時的な爆発やメディアの論調からは距離をとって、慎重で冷静 な判断を下すべきだったと佐伯教授は言う。政治の本質は微妙な判断の連続で、いちいち民意を問う時間がないことも多い。だから政治指導者には、大衆世論の動向やメディアの 論調から(d)チョウ然としていられる見識と、その判断を支える情報収集力 が問われる。「そういうぎりぎりの厳しさを持った政治家が今、いるのか。メディアを使った人気取りに明け暮れるなんて論外でしょう」

『朝日新聞』2007年7月6日付
国家よ「テレビはどこへゆく　『面白さ』にすり寄る政治」より

【問１】下線部(a)「異ショク」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．汚ショク事件が発覚する。
　　（　　　　　）
　2．いい感ショクを得る。
　　（　　　　　）
　3．皆既月ショクを観察する。
　　（　　　　　）
　4．敗ショクが濃厚になる。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「カイ在」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．濃霧で視カイが悪い。
　　（　　　　　）
　2．祖母のカイ護をする。
　　（　　　　　）
　3．病状がカイ方に向かう。
　　（　　　　　）
　4．段カイを踏んで学習する。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「造ハン」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．大きなハン響を呼ぶ。
　　（　　　　　）
　2．生ハン可な知識をひけらかす。
　　（　　　　　）
　3．防ハンベルを取りつける。
　　（　　　　　）
　4．親が模ハンを示す。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「チョウ然」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．チョウ人的な能力の持ち主。
　　（　　　　　）
　2．決してチョウ発には乗らない。
　　（　　　　　）
　3．作り話を吹チョウする。
　　（　　　　　）
　4．彼がうわさを流したチョウ本人だ。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「テレビ」の説明として不適当なものはどれですか。
　1．視聴率を上げるために娯楽性を重視している。
　2．情報番組のハードな話題は視聴者に敬遠されがちである。
　3．無意識のうちに視聴者に価値観を植えつけている。
　4．世論を作り出すうえで重要な役割を果たしている。

【問６】空欄［　Ａ　］・［　Ｂ　］に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。
　1．Ａ　そこで
　　 Ｂ　それでも
　2．Ａ　しかし
　　 Ｂ　そうして
　3．Ａ　つまり
　　 Ｂ　どうして
　4．Ａ　だから
　　 Ｂ　それゆえ

【問７】下線部(2)「この10年、政治家はテレビを大いに利用した」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．政治家がテレビに出演し、面白みや親しみのある面をアピールすることで、これまで以上に農村部での支持を得ようとした。
　2．テレビによって選挙を対決ドラマにすり替え、そのわかりやすさによって、都市部の無党派層の関心をひきつけようとした。
　3．テレビが作り上げる世論を、国民の大多数の意見だと思わせることで、議論が不十分なままに自らの政策を実行しようとした。
　4．政治メディアを娯楽性のある親しみやすいものにし、都市部の無党派層も政治に関心を持つように仕向けて、票を得ようとした。

【問８】下線部(3)「衆愚政治」の意味として最も適当なものはどれですか。
　1．政治家が国民を軽侮する政治。
　2．多数意見に熟慮なく従う政治。
　3．メディアが世論を支配する政治。
　4．独裁的な政治家が動かす政治。

【問９】下線部(4)「政治家とメディアとの距離感」の説明として最も適当なものはどれですか。
　1．政治家がメディアからの情報を独占し、自分でいかに判断し、行動するかということ。
　2．政治家がメディアからの情報を操作し、自分でいかに判断し、行動するかということ
　3．政治家がメディアの論調に迎合せず、自分でいかに判断し、情報を集めるかということ。
　4．政治家がメディアの論調に賛同せず、自分でいかに判断し、情報を集めるかということ。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．蒲島氏は、メディアが政局に与える影響の大きさを指摘しつつも、テレビの影響で政治への関心が多くの人々の間に広がったことを肯定的にとらえている。佐伯氏 は、テレビの言説が政治を左右し、また政治家自身がメディアにすり寄っている現状を批判的にとらえ、危惧を感じている。
　2．蒲島氏は、テレビが政治への深い関心を呼び起こすことを奨励し、政治メディアがソフト化したことを肯定的にとらえている。佐伯氏 は、政治家が民意を重んじるあまり、慎重かつ冷静に状況を判断する姿勢を失ってしまっていることを危惧している。
　3．蒲島氏は、テレビが政治メディアをソフト化し、政治への関心を若年層にまで広げたことを肯定的にとらえている。佐伯氏は、政治家がテレビを利用 して、自らの見識の高さを人々に印象づけ、人々が自分でよく考えもしないで政治家の意見に追従することを危惧している。。
　4．蒲島氏は、テレビが政治への関心をもたらしたことを肯定的にとらえる一方で、映像のもたらす影響の大きさについて、もっとテレビに自覚してほしいと訴えている。 佐伯氏は、政治家がメディアとの間に距離をとるべきであると主張し、政治活動に厳しい姿勢で取り組める政治家の出現を期待している。