練習問題『歴史に探る気候変動』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　北海道洞爺湖サミットでは温暖化対策をめぐり議論が続く。そうした状況を(a)ダ開する手がかりや視点を歴史のなかに探ろうとの研究が進んでいる。過去に気候がどう変化してきたのか、人間や社会はどう対応してきたのかを解明しようとの試み。自然観や歴史像の問い直しを求める作業ともいえる。
　グラフがスクリーンに映し出されると、思わず身を乗り出す人がいた。首都大学東京で6月22日あった日本旧石器学会。信州大の公文富士夫教授（地質学）が発表したのは、(1)氷河時代（旧石器時代）から縄文時代まで約7万年間の気候の推移だった。
　長野県・野尻湖の(2)湖底堆積(たいせき)物に含まれる樹木の花粉を分析した。周囲に広がっていた森林がどのように変化したかを解明することで、気候の変動を復元する手法だ。
　野尻湖は標高654メートル。氷河期にはツガやモミなど主に亜寒帯針葉樹林が広がっていた。現在なら樺太付近の植生にあたる。寒暖は変動を繰り返し、なかでも縄文へと移行する1万数千年前は振幅が激しかった。ブナやケヤキの落葉広葉樹の森に変わり、また針葉樹林に戻る現象が短期間で繰り返された。100年で7度ほど気温が上昇したこともあったらしい。縄文に入ると多少の変動はあるが、［　Ａ　］に温暖な状態で安定した。
　ボーリングで取り出した土砂をスライスして(b)ケン微鏡で花粉を確認、種類ごとに数え比率を出す地道な作業。一つ調べるのに2時間はかかる。研究員の河合小百合さんが866片を調べた。80年おきに相当する。同時に有機炭素の変化を35年おきに2064点調べ花粉の結果と(c)ショウ合させた。
　「日本列島の気候変動の実態を明らかにしなくては、なぜだったのかも、どうしたらいいのかも考えようがない」と公文さんは狙いを語る。ほぼ10年がかりの作業だった。
　「気候の変動がこれほど詳細、長期間にわたり示されたのは日本で初めて」と小野昭・首都大学東京教授（考古学）。類似の研究はあったが数百年から千年単位で、期間も短かった。そのためこれまでは、グリーンランドなど海外の研究をもとに日本の環境が論議されてきたという。
　人間と自然の関係を探る原点として、人間が日本列島に渡ってきた時期の環境を解明するプロジェクトを小野さんは今年始動させたばかり。「出発点となる研究が現れた」と喜ぶ。
　滋賀県立琵琶湖博物館総括学芸員の高橋啓一さんも発表に見入った一人だ。古い時代の動物が専門で近年はマンモスの研究に取り組んでいる。
　00年に北海道の博物館で化石の写真を見たのがきっかけだ。オホーツク海に近い町で発見されたマンモスとされていたが、5枚のうち1枚はナウマンゾウだった。マンモスは亜寒帯針葉樹林の北に広がる草原に、ナウマンゾウは温暖な落葉広葉樹林帯にすむ。北海道でナウマンゾウが見つかった例はあったが、ここまで北にいたとは地元の研究者も思わなかったようだ。
　北海道ではマンモスの化石が13点見つかっている。高橋さんは地元の研究者と共同で年代測定を試みた。9点で測定値を得ることができ、4万5千年～3万5千年前、2万5千年～1万6千年前という2時期に分かれた。ナウマンゾウはその間の3万年前で温暖な時期にあたっていた。「温暖化(3)でナウマンゾウは生息域を北へ広げた。一方、寒い所にしかすめないマンモスはより北へと移ったのだろう」と高橋さんは解釈する。
　(4)マンモスの絶滅をめぐっては「人間の過剰な狩りが原因」との考えが長く［Ｂ］だった。北米で姿を消したのが人間が登場した直後であることが大きな理由だ。
　だが、近年は温暖化説が力を得ている。環境が変化し生きる場を失ったとの見方だ。
　年代測定技術の発達により、北米、シベリア、アラスカと順を追って姿を消したことが分かった。北米ではほかにも大型動物が絶滅しているが、人間の到達前に絶滅した種もあれば、到達後に数を増やした種もあったことが判明し、マンモスだけが人間のせいで絶滅したと考える根拠の乏しいことも分かってきた。
　絶滅は温暖化が主な原因だったとの思いを高橋さんは強めている。最後とされるマンモスは北極海の島で見つかっている。生き延びるためだろうが、小型化し氷河期の王者の面影は消えていた。
　高橋さんの研究を知って、国立歴史民俗博物館の春成秀爾名誉教授（考古学）は「人間がマンモスを絶滅させたと考えてきたのはなぜだろう」と自分に問いかけたという。
　「人間は自然を(d)セイ服できると思ってきた。気候の変動になど左右されないと思いこんできた。そのために見えなかった歴史があるのでは」

『朝日新聞』2008年7月9日付
文化「歴史に探る気候変動」より

【問１】下線部(a)「ダ開」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．怠ダな生活を送る。
　　（　　　　　）
　2．すっかりダ落する。
　　（　　　　　）
　3．和解をダ診する。
　　（　　　　　）
　4．ダ目でもともとだ。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「ケン微鏡」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．キーワードでケン索する。
　　（　　　　　）
　2．原因がケン著である。
　　（　　　　　）
　3．実ケンの結果を記す。
　　（　　　　　）
　4．平和活動に貢ケンする。
　　（　　　　　）

【問３】下線部(c)「ショウ合」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．ショウ明器具を購入する。
　　（　　　　　）
　2．恩師をショウ待する。
　　（　　　　　）
　3．左右対ショウの図形。
　　（　　　　　）
　4．ショウ味8時間働いた。
　　（　　　　　）
 
【問４】下線部(d)「セイ服」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．感情をセイ御する。
　　（　　　　　）
　2．音量を調セイする。
　　（　　　　　）
　3．練習試合で遠セイする。
　　（　　　　　）
　4．虚セイを張る。
　　（　　　　　）

【問５】下線部(1)「氷河時代（旧石器時代）から縄文時代まで約7万年間の気候の推移」を研究した理由として最も適当なものはどれですか。
　1．気候の変動を調査することで、温暖化対策の一環としての地質学の重要性を訴えたかったから。
　2．長期間にわたる気候の変動を調査することで、これまで用いてきた海外の研究データとの違いをアピールすることができるから。
　3．日本における過去の気候の変動を調べることで、乱伐に警鐘を鳴らし、森林保全の啓発に努めることができるから。
　4．日本における過去の気候の変動を調べて、現在の温暖化の原因や対処法を探ることに役立てたかったから。

【問６】下線部(2)「湖底堆積(たいせき)物に含まれる樹木の花粉を分析した」によって解明されたこととして最も適当なものはどれですか。
　1．亜寒帯の植物と温暖な地域の植物とが交互に植生しており、人類の出現以前に世界的な気候変動があったこと。
　2．落葉広葉樹の森と針葉樹林が交代を繰り返し、縄文の1万数千年前は短期間で激しい気候の変動があったこと。
　3．氷河時代から縄文までの間、寒暖は変動を繰り返したが、縄文へ移行する数千年前から、温暖な状態を保っていたこと。
　4．縄文以前は気候の変動が激しく、その影響で寒い所にしかすめないマンモスが絶滅したこと。

【問７】空欄［　Ａ　］・［　Ｂ　］に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。
　1．Ａ　普遍的
　　　Ｂ　形式的
　2．Ａ　基本的
　　　Ｂ　支配的
　3．Ａ　例外的
　　　Ｂ　主観的
　4．Ａ　効果的
　　　Ｂ　画期的

【問８】下線部(3)「温暖化でナウマンゾウは生息域を北へ広げた」と同じ意味・用法の「で」を含むものはどれですか。
　1．母は、手料理で友人をもてなした。
　2．で、何の用だい。
　3．兄は政治家で、弟は音楽家だ。
　4．かぜで学校を休む。

【問９】下線部(4)「マンモスの絶滅」についての説明として最も適当なものはどれですか。
　1．人間のせいでマンモスが絶滅したという見方がこれまでは強かったが、気候の変動とマンモスの生息域との関連を解明することで、温暖化が絶滅の主な原因だという見方が強まった。
　2．人間のせいでマンモスが絶滅したという見方がこれまでは強かったが、化石の分析が進むことで、マンモスがしだいに小型化していったことが原因だという見方が強まった。
　3．人間のせいでマンモスが絶滅したという見方がこれまでは強かったが、年代測定技術の発達により、北米で姿を消したのが人間が登場した直後であることが判明した。
　4．人間のせいでマンモスが絶滅したという見方がこれまでは強かったが、年代測定技術でマンモスとナウマンゾウの生息域が判明し、ナウマンゾウがマンモスの絶滅を促したという見方が強まった。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．温暖化対策は世界的な問題となっており、対策に向けた研究が進んでいる。古代における気候変動が激しかったことも解明され、現代の比較的緩やかな温暖化についても対応の仕方を再考する時期にきている。
　2．樹木の花粉を分析することで短期間ごとの気候変動が解明され、氷河時代にも急激な温暖化があったことが解明された。現代の温暖化と類似しており、人間の力だけでは温暖化は止められないことが分かってきた。
　3．樹木の花粉や動物の化石の分析により、過去の気候がどう変化してきたのかが解明されてきた。温暖化とその対策が叫ばれているが、自然の力に人間が及ばない部分もあるということが認識されつつある。
　4．人間は自然を負かし、気候の変動などによって左右されることはないとおごった考えを持っていた。この考えを改めない限り、人間もマンモスのように絶滅する時が来るだろう。