練習問題『企業不祥事なぜ相次ぐ』

【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

　近年、企業が利益追求をする前提となる安全や品質管理に関する事故や不祥事が相次いでいる。エレベーターやシュレッダーの製品事故、ガス機器の不具合による死亡事故など後を絶たない。
　さらに深刻なのは事故や安全対策の不備を隠蔽(いんぺい)する偽装問題が次々と発覚していることだ。05年に大問題になったマンション、ホテルの耐震偽装問題では、今年になっても新たな事例が発覚した。さらに、原子力発電所で本来国などに報告すべきデータの改ざんや隠蔽が長期間にわたって続いていたことが発覚した。
　［　Ａ　］、不二家のずさんな衛生管理のように、外から見えない企業の内部で、規律の弛緩（しかん）が進んでいるとしか言いようのないケースもあった。
　こうした、事故・偽装・弛緩などの企業不祥事は、(1)経済政策の基本思想の選択においても大きな意味を持つ。これらの問題は、自由主義的な構造改革路線を批判する根拠となっているからだ。何でも市場競争で決めることが善だという風潮が、利益のためには何でもありという企業行動を生み、不祥事を引き起こしている、という批判である。
　しかし、問題の背景を冷静に見ておく必要がある。
　まず、経済面の説明としては、90年代からの長期不況によって、企業が厳しいコスト削減に追い込まれたということがある。たしかに、90年代から産業事故も増える傾向にあるという。コスト削減の余(a)ハで、安全対策がおろそかになったツケは大きい。ただ、コストの問題だけなら、今の景気拡大が続けば自然と解消するはずだ。しかし、企業不祥事の広がりは、不況だけでは説明のつかない点もある。
　社会面での説明としては、日本社会の近代化が進んだ結果、企業の現場の倫理を支えていた日本人の伝統や文化が壊れ、社会全体で規律や倫理が低下している、ということもあるかもしれない。
　［　Ｂ　］、これは日本固有の問題というより、市場経済化が進む各国に共通することでもある。
　発生当時は問題にならなかったことや長年隠されてきたことが、最近になって明るみに出た、というのも、このところの企業不祥事の特徴だ。
　何か、(2)日本に特有の変化が関連しているのだろうか。
　日本型経済システムの変化が、こうした企業不祥事の背景にあると考えると、問題の本質が把握しやすいのではないか。
　90年代まで続いた日本型経済システムでは、株式持ち合いと終身雇用制によって、企業は従業員にとって生涯依存する共同体のような存在だった。グループ内の企業がお互いに株式を持ち合う株式持ち合いは、株主の発言力を弱めた。企業は株主利益よりも、長期的な企業組織の成長を目指して経営を行った。
　成長する企業への忠誠心が終身雇用制によって培われ、従業員は、長期的な企業のブランドや信用を高めるよう、行動に細心の注意を払った。
　現場の従業員が、企業という永続する共同体の構成員であるとの意識を持ったことが、安全倫理を高める効果を持っていたと考えられる。（一方、(b)フク作用として、企業に都合の悪いことは、多少の問題なら隠そうとする体質を従業員に広げたともいえる）
　だが、日本型経済システムは、先進国に追いつくまでに限って維持できた特殊なシステムだった可能性が高い。経済が成熟し、低成長が定着すると、日本型システム（特に終身雇用）の前提条件だった「永続的な企業の成長」が不可能になった。
　株式持ち合いは崩れ、短期的に株主の利益を最大化することが企業により強く求められるようになった。終身雇用も壊れ、企業への［　Ｉ　］意識が持ちにくくなった。従業員は「会社の長期的発展のために高い規律を保つ」という考えを維持できなくなってきた。
　こうした変化は、日本経済の成熟化などに伴う不可(c)ヒな変化だ。政府が改革路線をやめても、この変化は止められない。
　日本型システムが壊れつつある現在、企業の現場で高い安全意識や規律を保つためには、企業共同体への［　Ｉ　］意識や忠誠心とは異なった動機付けメカニズムが必要なのだ。
　特に、安全分野について、技術者が（企業横断的な）プロフェッショナルとしての自己認識をもてるようになれば、誇りと規律を高めることができるだろう。たとえば英国では、化学などの技術分野ごとに職能団体がある。技術者の待(d)グウ改善を企業に要求する労組のような役割もあるが、プロとしての自覚を高める相互(3)啓発活動などもしているという。
　企業に［　Ｉ　］する一員ではなく、独立したプロとしての自覚を社員が持てるような仕組みを作る。それが、次の時代の経済システムに求められる課題といえるのではないか。

『朝日新聞』07年5月12日付
けいざいノート「企業不祥事なぜ相次ぐ」より

【問１】下線部(a)「余ハ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．社員をハ遣する。
　　（　　　　　）
　2．全国を制ハする。
　　（　　　　　）
　3．ハ紋が広がる。
　　（　　　　　）
　4．ハ格の扱いを受ける。
　　（　　　　　）

【問２】下線部(b)「フク作用」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．起フクに富んだ場所。
　　（　　　　　）
　2．全プクの信頼を寄せる。
　　（　　　　　）
　3．山の中フクで休憩する。
　　（　　　　　）
　4．フク詞は用言を修飾する。
　　（　　　　　）
 
【問３】下線部(c)「不可ヒ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．責任を回ヒする。
　　（　　　　　）
　2．ヒ業の死を遂げる。
　　（　　　　　）
　3．ヒ露宴に出席する。
　　（　　　　　）
　4．ヒ写体にピントを合わせる。
　　（　　　　　）

【問４】下線部(d)「待グウ」と同じ漢字を含むものはどれですか。
　1．グウ司を務める。
　　（　　　　　）
　2．グウ像を崇拝する。
　　（　　　　　）
　3．不グウの人生を送る。
　　（　　　　　）
　4．一グウを照らす明かり。
　　（　　　　　）

【問５】空欄［　Ａ　］・［　Ｂ　］に入る語の組み合わせとして最も適当なものはどれですか。
　1．Ａ　また
　　　Ｂ　しかし
　2．Ａ　だから
　　　Ｂ　したがって
　3．Ａ　だが
　　　Ｂ　なぜなら
　4．Ａ　つまり
　　　Ｂ　さて

【問６】下線部(1)「経済政策の基本思想の選択においても大きな意味を持つ」の理由として最も適当なものはどれですか。
　1．企業不祥事の背景は自由主義的な構造改革路線であるという認識から、経済利益を社会全体で共有しようとする気運が高まってくるから。
　2．企業不祥事の背景は日本の企業の隠蔽体質であるという認識から、自由主義経済そのものを否定する気運が高まってくるから。
　3．企業不祥事の背景は自由主義的な構造改革路線であり、それに加えて長期不況が事態を悪化させているという認識から、コスト削減の経済を見直す気運が高まってくるから。
　4．企業不祥事の背景は経済利益最優先の政策であるという認識から、現在の経済政策の転換を求める気運が高まってくるから。

【問７】下線部(2)「日本に特有の変化」の内容として適当でないものはどれですか。
　1．社会の近代化により、社会全体で規律や倫理が低下してきたこと。
　2．株式持ち合いが崩れ、株主利益の最大化が求められるようになってきたこと。
　3．従業員が規律を守るのは会社の長期的発展のためだ、という意識が薄れてきたこと。
　4．企業は共同体であり、自分はその中で役割を担う存在だ、ととらえる意識が薄れてきたこと。 

【問８】三箇所の空欄［　Ｉ　］に共通して入る語として最も適当なものはどれですか。
　1．対抗
　2．対応
　3．帰属
　4．隷属

【問９】下線部(3)「啓発」の本文での意味として最も適当なものはどれですか。
　1．新しい知識を与え、開き進めること。
　2．今までを振り返り、謙虚に反省すること。
　3．高い目標を掲げ、協力し合うこと。
　4．互いの欠点を補い、その能力を高めること。

【問10】本文の内容に合うものはどれですか。
　1．企業不祥事が相次いでいる原因は、90年代からの長期不況によるコスト削減である。利益の追求のみを重視することは、長期的に見れば企業に損害をもたらすことになるため、企業は時間をかけて社員のプロ意識を高め、規律を保たせる必要がある。
　2．企業不祥事が相次いでいる一因に、日本型経済システムの変化がある。終身雇用制による企業への忠誠心が培われなくなった今、高い安全意識や規律を保つためには、社員がプロとしての自覚を持てるような仕組みを作る必要がある。
　3．企業不祥事が相次いでいる原因は、経済利益最優先の政策である。自由主義的な構造改革路線が行き詰まりを見せている今、必要とされている政策は、この改革路線を継承し、社員がプロ意識を育てられるような土壌を作り上げることである。
　4．企業不祥事が相次いでいる一因に、日本型経済システムの変化がある。近代化が進む過程で低下してきた社会全体の規律や倫理をもう一度高め、技術者がプロとしての自覚と誇りを持てるような企業の体質を作ることが、今必要である。